研究課題/領域番号 |
26285158
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
小西 聖子 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (30251557)
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研究分担者 |
中島 聡美 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 成人精神保健研究部, 室長 (20285753)
堀越 勝 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 認知行動療法センター, センター長 (60344850)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 性暴力被害者 / 急性期 / ワンストップ支援センター / PTSD(心的外傷後ストレス障害) / ASD(急性ストレス障害) / 心理教育 / 解離症状 / トラウマ |
研究実績の概要 |
本研究は、性暴力被害者に対する急性期におけるPTSD治療/回復プログラム(以下、プログラム)を開発し、その有効性を検証することを目的としている。H27年度は下記を実施した。 1、性暴力被害者の実情についてデータ収集および分析:平成26年度から引き続き、急性期性暴力被害者の被害内容、被害状況、被害後の精神症状等を把握するため、都内ワンストップ支援センター開設後3年半の間に精神科に紹介された被害者について、カルテ調査を行った。その結果、調査対象者40名のうち、書面にて研究許諾を得た30名が分析対象者となり、順調にケース数が増えた。30名の平均年齢は27.40±7.46歳であった。被害から精神科受診までの期間は、1か月以内が16.7%、3か月以内が40.0%、3か月から1年以内が16.7%であり、15年以上たって受診した者が26.7%であった。被害内容は、レイプ56.1%、強制わいせつ23.3%、DV・デートDV10.0%、性的虐待6.7%等であった。臨床診断の結果は、ASDが6.7%、PTSDまたはPTSD疑いが76.7%であった。治療転帰は、2015年11月末現在で治療終結・寛解が26.7%、治療継続・軽快が33.3%、治療継続・不変が10.0%、治療中断が26.7%などであった。 2、プログラム案の検討:Webプログラムの方針を検討するとともに、プログラム構成案を作成した。コンテンツ案作成のためのカルテ情報の分析および性暴力被害者および支援者へのインタビュー実施について研究計画を策定し、倫理委員会へ申請するための書類を作成した。 成果報告としては、カルテ調査結果の演題が学会で採択された他、心的外傷後ストレスに対するインターネットやWebによる早期介入についてのレビュー論文を投稿した。また、性暴力被害者のための支援情報ハンドブックの有用性評価の研究については、投稿論文執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H27年度は、前年度に引き続いて、ワンストップ支援センターから精神科へ紹介される性暴力被害者のカルテ調査を継続で行ったところ、調査への許諾が得られた分析対象者は30件となり、データ数は順調に伸びている。加えて、対象者の約6割が寛解または軽快するなど治療経過は良好であり、Webプログラム作成に必要なデータ収集を行うことができている。また、Webプログラム構成案の作成は完了しており、研究の推進状況は全体的には順調である。しかし、H27年度の当初の計画で予定していた、開発プログラムのマテリアルの作成までは至っていないため、進捗状況が当初の計画よりもやや遅れていると判断した。やや遅れている理由については、以下の通りである。 1、カルテから調査項目データを収集、入力することに労力がかかり、多くの時間を費やしている。2、プログラム作成にあたり、PTSD治療の専門的技術を習得するため、H26年度に引き続き、慢性PTSDの治療エビデンスの高い認知行動療法であるProlonged Exposure療法に関して、海外講師よりスーパービジョンを受けた。3、開発するWebプログラム作成のため、心的外傷後ストレスに対するインターネットやWebによる早期介入についての文献レビューを当初の計画に追加して行った。4、Webプログラムのコンテンツ案作成するためには、実際の診療内容や性暴力被害者および支援者の意見を反映させることが重要であると考え、当初の計画に追加して、カルテ情報の分析および性暴力被害者およびワンストップ支援センター支援者へのインタビュー調査を実施する研究を計画している。調査実施のため、所属機関の倫理審査の準備を行っている。 なお、補助金の繰越し金は、Webプログラム開発費に使用するため、次年度に繰り越した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、トラウマ症状に対する早期介入としてスマートフォン等で利用可能なプログラムを開発するために、急性期を3ヶ月以内と定義し、まず、急性期に初診に訪れた性暴力被害者とそれ以降に初診に訪れた性暴力被害者の転帰や症状評価の比較検討を行う。次に、急性期の性暴力被害者に対して実際の治療で行われている早期介入内容についてカルテを分析し、プログラムの検討を行う。 加えて、プログラムのコンテンツ案作成するためには、性暴力被害者および支援者の意見を反映させることが重要であると考え、性暴力被害者およびワンストップ支援センター支援者へのインタビュー調査を実施する研究を計画している。調査実施のため、所属機関の倫理審査に申請するとともに、インタビュー対象者の選定、インタビュー項目を策定する。 プログラムは被害者当人にとって利便性が高いコンテンツとするため、スマートフォン等で利用できる形式とする。プログラム内容は、性暴力被害者のPTSD治療エビデンスおよび臨床で個別に行っている被害後急性期の性暴力被害者に対するPTSD治療をもとに開発する。具体的には、(1) 治療動機づけとエンパワメント、(2) 心理教育(PTSD症状、解離症状、二次被害、外傷後認知など)、(3) 外傷後認知に関する認知再構成、(4) リラクセーション、(5) 現実エクスポージャー(認知行動療法技法)、(6) 対処行動の促進(安全の確保、サポート資源の確保、アサーションなど)のプログラムを予定している。 今年度はプログラム素案を制作し、内容および動作環境、運用上の問題について検証する。 研究成果報告としては、ワンストップ支援センターから病院へ紹介された性暴力被害者の被害の実情について、学会および論文で発表する。また、平成26~27年度に実施した性暴力被害者のための支援情報ハンドブックの有用性評価について、学会および論文で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Webプログラムのコンテンツ案作成するためには、性暴力被害者および支援者の意見を反映させることが重要であると考え、当初の計画に追加して、カルテから必要な情報を抽出し、性暴力被害者およびワンストップ支援センター支援者へのインタビュー調査を実施する研究を計画している。これにより、本研究で開発する性暴力被害者に対する急性期におけるPTSD治療/回復プログラムのWebプログラム開発はH28年度に行うため、H27年度に計上していたWebプログラム開発費をH28年度に使用することとしたため、翌年度に持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
性暴力被害者に対する急性期におけるPTSD治療/回復プログラムのWebプログラム開発費として使用する。
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