研究課題/領域番号 |
26285164
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横澤 一彦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20311649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 統合的認知 / 共感覚 / 感覚間協応 / 認知心理学 / 共感覚的認知 |
研究実績の概要 |
3つのサブテーマに分けて取り組んだ。第1に、共感覚の根本的な特徴である個人特異性の問題に取り組んだ。2つの指標により、共感覚者の分類を行い、個人特異性と共通性の関係を調べた。1つ目の指標は、時間的安定性である。共感覚者の判定は、間隔を空けた反復によって得られる共感覚色間の距離に基づいて、安定しているかどうかで定量的認定を行っているが、このような時間的安定性の微妙な変動が個人特異性に反映されているかどうかを確認した。もう1つの指標は、共感覚色の見えによる分類である。投射型と連想型という2分法的な分類や、Skelton,et al. (2009)が提唱している5分類などである。このような共感覚色の見えの違いが個人特異性に反映されているかを確認した。その結果、字種によらず、また投射型や連想型にかかわらず、色字共感覚者の時間的な安定性が高いことが分かった。このことは、共感覚色の見えが異なっても、共通の機序にによって得られていることを示唆している。 第2に、感覚間協応と共感覚の関係に着目し、共感覚者と非共感覚者を含む集団において,共感覚者と非共感覚者は連続分布しており、非共感覚者の感覚間協応、すなわち色字共感覚的認知の可能性について検証した。色字対応には規則性が存在し、共感覚者の場合と同様に、親近性の高い文字はより基本的な色(Berlin &Kay, 1969)に結び付けられる傾向があった。このことと、共感覚者と非共感覚者の分布が連続的であるという仮説の関係を検討した。 第3には、非共感覚者の感覚間協応に関して、知覚特徴同士の協応を実験的に操作することで、人為的に感覚間協応が形成できるかどうかを確認した。視聴覚情報の共起確率を操作することで、課題無関連な特徴の共起が課題特徴の知覚に影響を与えることを明らかにした。また、色と概念の感覚間協応の関係についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つのサブテーマに分けて取り組んだ結果、第1に、共感覚者の分類を行い、個人特異性と共通性の関係を調べ、字種によらず、また投射型や連想型にかかわらず、色字共感覚者の時間的な安定性が高いことが分かったので、2015年開催の国際会議であるVision Sciences Societyでこの研究成果を発表することになった(Yokosawa & Asano, 2015)。第2に、感覚間協応と共感覚の関係に着目し、非共感覚者の色字対応には規則性が存在し、共感覚者の場合と同様に、親近性の高い文字はより基本的な色に結び付けられる傾向があることを実験的に明らかにした研究成果は、国際会議Annual Meeting of the Psychonomic Societyで発表するとともに、Quarterly Journal of Experimental Psychology誌に学術論文として掲載されることが決まった(Nagai, Yokosawa, & Asano, in press)。 第3には、共感覚者の感覚間協応に関して、視聴覚情報の共起確率を操作することで、課題無関連な特徴の共起が課題特徴の知覚に影響を与えることを明らかにした研究成果は、国際会議OPAM Annual Meetingで発表した。また、色と概念の感覚間協応の関係については、その研究成果を国際会議Annual Meeting of the Psychonomic Societyで発表した。 このように、いずれのサブテーマも、研究計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、3つのサブテーマに分けて取り組む計画である。第1に、共感覚における個人特異性と共通性の問題については、各文字が表す概念と色字共感覚との関係を明らかにしたいと考えている。第2に、感覚間協応と共感覚の関係について、色と聴覚的特徴の感覚間協応を取り上げ、色聴共感覚との関係についての検討を始め、第3に、感覚間協応について聴覚的特徴と概念の感覚間協応関係にも研究展開を図り、サブテーマを有機的につなげながら、共感覚と感覚間協応の機序の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
共感覚と感覚間協応に関するサブテーマそれぞれについて、新たな実験を進めるための準備にも取り組んだので、予定していた人件費・謝金と差額が生じた。これは、実験研究が停滞していたためではなく、慎重に予備実験を行い、本実験のための準備を進めてきたためであり、次年度以降に実験実施に取り組むことになる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を有効に利用し、共感覚と感覚間協応の実験研究を協力に進める計画である。
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