研究課題
本研究では、顔認知のばらつきのメカニズムとその形成過程を、異文化間で比較する試みを行う。特に「先天性(発達性)相貌失認」に至る顔認知の歪みについて様々な手法で検討する。本年度はこのテーマの中でも、異文化比較発達研究に専念し、眼球運動を指標とした実験的検討を行った。イタリア人新生児と生後4ヶ月以降の日本人乳児を対象とした実験では、眼球運動を指標として、顔の動きが視覚的注意に影響を与えることを発見した。顔への視覚的注視は新生時から存在するものの、生後4ヶ月までにその精度が劇的に改善されることが判明した。また別の実験では、生後7ヶ月の乳児を対象に眼球運動から顔認知の文化差の発現を調べる実験を行った。すなわち、東アジア文化圏と西欧文化圏の女性の微笑みと悲しみという異なる表情を観察する際の、眼球運動を計測し比較した。実験の結果、西欧文化圏の乳児は口の周囲を、東アジア文化圏に位置する日本人乳児は目の周囲を観察するという違いが観察された。この結果は、共同研究者が以前発表した、西欧文化圏と東アジア文化での表情認知の文化差と同じ傾向を示すものであり、生後7ヶ月から既に成人と同様の文化差を体現していることが判明した。以上から眼球運動を用いて顔認知脳力を調べる手法を構築したことと、その文化差の発現過程を調べる手法を確立することができた。これらの手法を用いて成人のばらつきと文化差についてさらに解明する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、学術論文(国際誌)が6本、海外での発表3本、国内での発表12本を行った。特に視線の文化差の発達研究はCurrent Biologyに掲載され、広くインパクトを示す結果を発表できたことは、大きな成果と考える。また、発達障害と顔認知に関して一般書(新書)で顔にかかわる解説をしめすことができ、後者はジュニア向けの新書であり、15校を超える中学入試で本文が採用されることになり、本申請がかかわる成果を小・中・高校生に至るまで、広く示すことができたと考える。さらに昨年度に引き続き東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所とともに顔と身体表現に関するシンポジウムを企画し、報告書にまとめる作業を行っている。研究成果と共に、研究成果を一般向けに広めることもでき、期待される成果をあげることができたと考える。
引き続き論文執筆作業を行い、一般向け書物の執筆と、アウトリーチ活動として、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所とともに顔と身体表現に関するシンポジウムを毎年企画し、報告書にまとめる作業を行う予定でいる。次年度の実験のために、学生を対象に大量のデータを取り個人差を抽出し、fMRI実験の準備も行う予定である。
年度を越して採択される予定の論文があるため。
年度を越して採択される予定の論文があり、論文掲載料や抜き刷り代などに使用する必要がある。実験は年度を越えて行っているので、年度を越した使用が必要である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件) 図書 (2件)
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