研究課題/領域番号 |
26285196
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
矢澤 真人 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30182314)
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研究分担者 |
安部 朋世 千葉大学, 教育学部, 教授 (00341967)
宮城 信 富山大学, 人間発達科学部, 准教授 (20534134)
松崎 史周 日本女子体育大学, 体育学部, 講師 (20634380)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 児童・生徒作文 / コーパス / 国語教育 / 日本語研究 / 国語辞書 / 語彙 / 文法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、各部門とも昨年度に引き続き、研究を展開させた。日本語教育や英語教育との連携についての検討が進められたほか、リーダビリティーに関わる分析、児童・生徒の能力に対応した個別対応型辞書の開発に向けた基礎調査など、新しい分野への取り組みも進んだ。 文型研究部門では、児童・生徒の文章作成や推敲に関わる文法的課題について、日本語研究の立場から分析・考察を行うことを目的とし。平成29年度は、抽象名詞が取りやすい文型と文脈との関係について分析を行うとともに、辞書開発部門と連携し、学習用語事典の語釈のリーダビリティについて分析を行った。さらに、英語教育との関連から、文法用語の習得状況に関する調査を行った。作文コーパス部門では、平成25年~27年に収集した作文を電子化してコーパスを完成させた。現在当該コーパスでは機械解析により形態論情報を附しているが、それの人手修正を実施しつつある。また当該文コーパスのデータを利用した研究成果として、児童らの漢字使用の実態を明らかにした。作文コーパスの特性を生かして統計的分析も実施し妥当性を担保した研究成果とした。指導法開発部門では、平成28年度に引き続き、児童作文における文法的不具合の分析、作文・推敲につながる文法指導の検討、文法教育史の検証などを進めた。特に、児童作文における節連鎖の分析と主述関係の分析、公立中学校における作文・推敲につながる文法授業の実践研究の調査・分析、小学校「書くこと」における語彙・文法の指導に関わる検討、戦前期の文法教育の検討などで成果を上げた。辞書開発部門では、抽象語の調査と分析を進めるとともに、利用者の能力・用途・環境に対応する個別対応型辞書の基本構想を構築した。日本語教育部門では、指導法開発部門と連携し、国語教師と日本語教師の作文添削法の比較を進めた。 全体として、平成28年度に引き続き、高い生産性を維持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全体として、総括部門の主導のもと、部門間の連携強化と全体の調整により、各部門とも極めて良好な進捗状況にある。 文型研究部門では、抽象名詞と文型については抽象名詞が取りやすい文型と談話展開とに関連が見られること、リータビリティについては、学習用国語辞典の見出し語と語釈中の語彙の難易度に逆転現象が見られることを明らかにし、さらに、大学生の品詞理解度について分析を行うなど、注目される成果を上げている。 作文コーパス部門では、3年分の作文コーパスをほぼ完成させ、研究分担者内で限定公開したことにより、各部門で本コーパスを利用した研究が格段に進展し、多くの成果が上がっている。 指導法開発部門では、児童作文に見られる文法的不具合について、調査・分析を終え、総括を行う段階に入っている。作文・推敲につながる文法の学習指導について、文法的不具合を取り上げた中学校での授業開発と検証を終え、所期の目標を達成している。 辞書開発部門では、児童・生徒の作文において、説明的文章に用いられる抽象語の調査と分析を進めた。教科書における抽象語の頻度調査、高校生の抽象語の運用能力調査などを踏まえて、倫理展開の手順とそこに現れる表現に関わるスキーマを構築するとともに、一部は実際に国語辞書や教科書に反映されている。あわせて、児童・生徒用作文支援型学習国語辞典をさらに発展させた、利用者の能力・用途・環境に対応する個別対応型辞書の基本構想を構築し、新たな分野の開拓に取り組んでいる。 当初の予定以上の研究成果があげられていること、研究成果の一部が実際に教科書や辞書等に応用されていること、新たな研究分野の開拓も進んでいることから、(1)の区分と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は、各部門とも五年間の総まとめをおこなうとともに、新たな研究分野への展開を図る。 文型分析部門では、抽象名詞と文型について、これまでの成果のとりまとめを行うとともに、さらに文型と談話展開との関係についての分析も行い、より包括的な分析を行う予定である。さらに、リータビリティについて、語彙の難易度と児童・生徒の理解度との関係について分析を行う。 コーパス開発部門では、児童・生徒作文コーパスの試用版を公開版へとバージョンアップさせることを図る。あわせて、各部門と連携して、これを利用した研究をさらに推進させていく。また、児童・生徒作文コーパスの現場向け資料の作成や、教員のコーパス分析の支援など、現場の教員や研究者の利用環境の整備も進める予定である。 指導法開発部門では、研究協力者をさらに動員して、児童作文における文法的不具合の調査・分析を完了させ、全体像の解明を行っていく。また、新学習指導要領の完全実施に向け、これまでの研究成果を総括して、語彙・文法事項に関わる情報を教育現場に提供するための拠点の形成を図る。 辞書開発部門では、抽象語を中心に、教科書や学習国語辞書に反映させるための記述モデルの構築をさらに進めるとともに、高校生の意見文の収集を図り、一般向け国語辞典への反映も試みる。あわせて、個別対応型辞典のグランドデザインを確立させるとともに、それを実現するための研究プログラムの構築を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者において、平成29年度秋期に追加分の児童生徒作文調査を実施し、冬休みにテキスト化する計画であったが、児童生徒が作文を執筆する日程が平成30年初めにずれ込んだため、平成29年度の予算期限で、謝金を利用したテキスト入力業務が出来なくなったとの連絡があった。 このため、入力にかかる謝金240000円分を平成30年度に繰り越さざるをえなくなった。追加分の児童生徒作文は、すでに手元にあり、平成30年度の予算執行が可能になった段階で、謝金を利用して入力業務を開始する予定である。
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