研究課題/領域番号 |
26285208
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
原島 恒夫 筑波大学, 人間系, 教授 (70262219)
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研究分担者 |
加藤 靖佳 筑波大学, 人間系, 准教授 (10233826)
田中 慶太 東京電機大学, 理工学部, 准教授 (10366403)
小渕 千絵 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 准教授 (30348099)
小林 優子 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 講師 (40594411)
宮本 信也 筑波大学, 人間系(副学長), 副学長 (60251005)
鄭 仁豪 筑波大学, 人間系, 教授 (80265529)
左藤 敦子 筑波大学, 人間系, 准教授 (90503699)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 聴覚障害教育 / インクルーシブ / 高度医療 |
研究実績の概要 |
これまで海外における調査として、ミュンヘンにおける聴覚障害教育について実地調査(2015年度)を行った。その結果、近年ミュンヘンにおいて、新生児聴覚スクリーニングおよび人工内耳技術の進歩が著しく、多くの人工内耳装用児は通常学校にインテグレートするようになっている状況となっていた。また聴覚障害学校においては、聴覚情報処理障害児・者(Auditory Processing Disorder:発達障害などを背景要因とした聞き取り困難者)が聴覚障害児・者共に学ぶ逆インテグレーションによる教育を受けている実態が明らかとなった。 2016年度は、研究代表者がパリにおけるインクルーシブ教育についての実地調査を行った。パリでは、パリ聾学校教師が通常学校に派遣され、通常学校に在籍する聴覚障害児教育のサポートや教科の授業などを行っていた。また、特徴的なこととして、通常学校にキューサイン通訳者が派遣され、キューサインを活用している学校が存在していた。キューサインは手話とは異なり、子音などの音韻情報を指の形で表す者である。また、キューサインの習得は手話の習得よりも早く、インクルーシブ教育において有効活用できるという示唆が得られた。 医療機関と教育機関との連携については、T聾学校とK大学のクリニックとの連携については、実際に連携を行っている者へのアンケート調査などを継続し分析した。その結果、医療機関側と教育機関側における「連携」に関する意識のずれなどが明らかになった。 その他、分担研究者により、聴覚障害幼児の交流保育関する研究、インクルーシブ教育におけるコミュニケーション上の課題として、聴覚障害児の発語明瞭度に関する研究、聴者集団への適応のための認知機能の研究などが進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニュージーランドにて開催された、12th Asia Pacific Congress on Deafnessにおいて、海外における聴覚障害インクルーシブ教育について報告した。また、フランスの聴覚障害に関する実地調査については、パリ聾学校のセンター的機能により、通常学校におけるインクルーシブ教育の一端が明らかになり、その内容が筑波大学付属聴覚特別支援学校紀要に掲載された。さらにパリにおけるインクルーシブ教育におけるキューサインの活用の重要性から、日本国内では初めての「日本キューサイン研究会」が研究代表者を中心として、2016年4月23日に第1回、7月16日に第2回、10月16日に第3回を開催し、全国から特別支援学校(聴覚障害)の関心のある教員他が30名近く参加した。 医療機関と教育機関との連携については、研究分担者が前年度調査結果を「聴覚障害児支援における医療機関と教育機関との連携に関する実態調査」として、2017年3月18日~19日に開催されたリハビリテーション連携学会にて発表した。 聴覚障害児・者のインクルーシブ教育において重要とされる難聴学級へのニーズに関しては、難聴学級経験者への半構造化面接によって得られたデータに関し、質的研究によりそのニーズを明らかにし、投稿論文が採択された。 さらにインクルーシブ教育において、通級指導教室担当教員に必要とされる聴覚障害教育の専門的技能や知識の整理・分析のため、筑波大学附属聴覚特別支援学校における、ベテラン教員の指導方略について、研究協力依頼および研究計画の検討を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツにおける聴覚情報処理障害児とのインテグレーション教育、フランスのインクルーシブ教育における専門教育者の派遣やキューサインの活用、これら海外における特徴的なインクルーシブ教育の方法論について総括する。 またパリにおける独創的なインクルーシブ教育では、通常学級におけるコミュニケーション手段としてのキュードスピーチの使用が有効であるとされる。これに関しては、音韻サイン(日本におけるキュードスピーチに類似したキューサイン)研究会を立ち上げ、研究を継続する。 医療機関との連携を積極的におこなっている特別支援学校(聴覚障害)においてどのような成果が得られているのかについては、当該学校へ調査を引き続きおこなう予定である。 人工内耳装用者や軽中等度難聴者、さらには聴覚認知に何らかの困難をもつ児童・生徒に対応した聴覚情報処理検査を開発し実施する。また特別支援学校(聴覚障害)に在籍する児童・生徒の言語力、学力、などの適応状況などについて、WISCなどの認知的アセスメント結果を分析する。この認知的アセスメントと平行して、聴覚障害児者の認知特性を、聴覚障害心理学の視点および脳科学的視点から検討をおこなうための、基礎的検討をおこなう。 さらに、インクルーシブ教育において、通級指導教室担当教員に必要とされる聴覚障害教育の専門的技能や知識について分析・検討をおこなうため、旧来の聴覚障害教育において必要とされてきた教育理念・技術について、その科学的根拠を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度の国際会議に出席・発表するための費用を確保するため、次年度使用額として一部を繰り越した。また、キューサイン研究会を開催するための費用も確保する必要があった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者、研究分担者および研究協力者の海外渡航費として使用する予定である。また、新たに加わったキューサインの研究では、キューサイン学習ソフトウエアの開発に使用する予定である。
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