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2016 年度 実績報告書

大学における発達障害学生の実態調査

研究課題

研究課題/領域番号 26285211
研究機関東京大学

研究代表者

渡辺 慶一郎  東京大学, 学生相談ネットワーク本部, 准教授 (10323586)

研究分担者 苗村 育郎  秋田大学, 保健管理センター, 名誉教授 (00155988)
水田 一郎  大阪大学, キャンパスライフ健康支援センター, 教授 (20273641)
佐々木 司  東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (50235256)
丸田 伯子  一橋大学, 保健管理センター, 教授 (50343124)
金子 稔  信州大学, 総合健康安全センター, 講師 (50571858)
布施 泰子  茨城大学, 保健管理センター, 准教授 (60647725)
研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2018-03-31
キーワード自閉スペクトラム症 / 注意欠如多動症 / 大学生 / WAIS-Ⅲ / スクリーニング
研究実績の概要

高い知能を有する大学生(コントロール群)の認知機能検査(WAIS-Ⅲ)では,4大学から88名のデータを得て再度解析したところ,全検査IQの平均は120を超え,言語性IQが動作性IQより有意に高かった.言語生IQを構成する群指数では「言語理解」>「作動記憶」であった.「言語理解」を構成する下位項目では「単語」>「類似」>「知識」と有意差が認められ,「作動記憶」では「算数」>「語音」=「数唱」であった.動作性IQでは「知覚統合」=「処理速度」であった.「知覚統合」を構成する下位項目では「積木」=「行列」>「完成」と有意差が認められ,「処理速度」では「符号」=「記号」であった.群指数間のディスクレパンシー分析では,各IQの差は大きく,10.8から19.8に及んだ.また,標準サンプル群との比較では,有意差0.05となる者が29.5-67%の割合で存在した.
上記結果から,高い知能を有する一般的な大学生では,認知機能検査の凸凹が認められた.そのため,発達障害がある大学生の検査では,凸凹自体を慎重に評価する必要があるだろう.これまでに多施設共同で高い知能を有する大学生の認知機能を一定数調査した報告は極めて少ないため,本研究の一つの成果と考えられた.
自閉スペクトラム症の自記式スクリーニングであるAQ(Autism-Spectrum Quotient)について,オリジナルの50問版(AQ-full)と28問版(AQ-Short),10問版(AQ-10),当研究チームで試作した質問紙の計4種について,5大学から得られた約2,300のデータを対象に有効性の比較を行ったが,先行研究に匹敵するほどの結果は得られなかった.ただし,本研究では疾患群とコントロール群共に大学生のみを対象にしている点で新奇性がある.今後の発達障害学生への支援に有益な基礎データを得ることが出来た.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究の目標は,大学生の発達障害に関する,(1)適切なスクリーニング法の開発とそれによる本邦の発達障害学生の推定在籍率の算出,(2)既に診断が確定している発達障害学生の実態調査,(3)修学支援に直結する認知機能障害の性質と修学環境とのミスマッチを明らかにすることである.
まず,当該年度の目的であった,DSM-5以外の精密な診断基準の導入はライセンス取得の困難性が予想に反して高く実現出来なかった.また,学生生活で困難を抱える学生には診断閾値以下の者も多く含まれるという現状がある.調査を進める中でこうした群のボリュームが無視できない状況が鮮明となった.スクリーニングで検出する対象をどの範囲とするかをさらに検討しなければならない.調査資料を再度見直して結果の意義を明確にする必要がある.さらに,AQ等の自記式スクリーニングでは不安や抑うつによるバイアスが問題となるが,本研究では自己理解が十分でない学生の存在も浮き彫りになった.即ち診断が確定しているにもかかわらず,スクリーニングの値が極端に低い群が一定数いたのである.自記式スクリーニング法では比較的高い知能を有する大学生には有効性が低い可能性がある.
発達障害学生に修学支援が必要な状況と,修学支援を受けている発達障害学生の認知機能については予備的な結果が得られた.その中で重要なのは,修学支援を受けた学生の「作動記憶」と「処理速度」が,一般的な大学生と比較して有意に低いというものだった.そして「作動記憶」と「処理速度」を構成する下位項目がそれぞれ有意に低かった.WAIS-Ⅲで測定している「作動記憶」は聴覚性作動記憶であるため,授業や研究活動での口頭指示を充分把握できないことが推測される.また「処理速度」は事務作業のスピードと正確さを反映しているため,効率よく学ぶという点で不都合が生じている可能性が考えられた.

今後の研究の推進方策

(1)比較的高い知能を有する大学生に対する自記式スクリーニングのあり方や限界について整理した上で,本研究で得られた知見を学術論文の形で発信したい.既存のスクリーニング法による評価では,提唱されているカットオフポイントでは感度と特異度の点で現状にそぐわない可能性がある.また,自己理解に乏しい学生は自記式スクリーニングによる検出対象とはなり難い.先行研究との違いを明らかにして,本研究の対象が疾患群とコントロール群のいずれも大学生であるという特徴を加味して考察する.
(2)発達障害学生の修学支援について,認知機能に関係する知見を中心に整理して学術論文の形で発信する.その際に比較の対照群のデータについても重要な知見が得られたため,合わせて公表したい.特に,発達障害学生の評価に際して,従来はWAIS-Ⅲのプロフィールが凸凹であることが一つの特徴とされていたが,その取り扱いを慎重にする必要が示唆されている.
(3)さらに,自記式スクリーニングの資料とWAIS-Ⅲのデータを関連づけて解析することで,自記式スクリーニング法の限界を補完し,臨床場面で活用出来る評価のポイント検出を目指す.こちらも意義のある知見が得られた場合は学術論文等の形で発信してゆきたい.

次年度使用額が生じた理由

研究全体の進捗状況がやや遅れていたため,論文投稿がそれに合わせて遅滞しています.

次年度使用額の使用計画

学術論文投稿に際しての諸費用として使用する予定です.

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2017 2016

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件)

  • [雑誌論文] 国立大学に在籍する大学生のWAIS-Ⅲ2017

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎,大島亜希子,苗村育郎,水田一郎,布施泰子,丸田伯子,金子稔
    • 雑誌名

      大学のメンタルヘルス

      巻: 1 ページ: 印刷中

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 発達障害学生への支援の実践を通して得られたこと2017

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎
    • 雑誌名

      大学のメンタルヘルス

      巻: 1 ページ: 印刷中

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 大学生を対象にした発達障害に関する質問紙調査2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎,苗村育郎,布施泰子,金子稔,大島紀人,島田隆史,川瀬英理,佐々木司,杉田義郎,佐藤武,守山敏樹,大島亜希子
    • 雑誌名

      CAMPUS HEALTH

      巻: 53 ページ: 355-356

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] 「臨床研究用絵画完成課題」の作成 課題遂行の個人差とASD傾向およびADHD傾向との関連2016

    • 著者名/発表者名
      松永しのぶ,松野隆則,木村あやの,渡辺慶一郎,橋本大彦
    • 雑誌名

      昭和女子大学生活心理研究所紀要

      巻: 18 ページ: 1-11

    • 査読あり
  • [学会発表] 発達障害の理解と小学校段階における支援2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎,森下由規子,佐々木美佐子
    • 学会等名
      発達障害教育シンポジウム
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2016-12-18
    • 招待講演
  • [学会発表] 国立大学に在籍する大学生のWAIS-Ⅲ2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎,大島亜希子,苗村育郎,水田一郎,布施泰子,丸田伯子,金子稔
    • 学会等名
      第38回 全国大学メンタルヘルス学会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2016-12-06
  • [学会発表] シンポジウム(発達障害-支援の現状と今後の展望-)発達障害学生への支援の実践を通して得られたこと2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎
    • 学会等名
      第38回 全国大学メンタルヘルス学会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2016-12-06
    • 招待講演
  • [学会発表] 発達障害がある大学生の修学・就労に関するアンケート調査2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎,大島亜希子,川瀨英理, 綱島三恵,島田隆史
    • 学会等名
      第54回 全国大学保健管理研究集会
    • 発表場所
      大阪市
    • 年月日
      2016-10-05
  • [学会発表] 発達障害学生に対する合理的配慮2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎
    • 学会等名
      第54回 全国大学保健管理協会 関東甲信越地方部会研究集会
    • 発表場所
      松本市
    • 年月日
      2016-07-08
    • 招待講演
  • [学会発表] 大学生の発達障害(東京大学の取り組み)2016

    • 著者名/発表者名
      渡辺慶一郎
    • 学会等名
      日本精神神経学会 第112回学術総会
    • 発表場所
      千葉市
    • 年月日
      2016-06-02

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公開日: 2018-01-16  

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