研究課題/領域番号 |
26285214
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70245950)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非定型発達児者 / ウィリアムズ症候群 / 学習熟達タイプ / 言語アート / ディスレクシア / ディスミュージア / 視空間認知障がい者のための新記譜法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、前年度までに検証した非定型発達児者群の学習熟達タイプと関連性のあるパラメータの妥当性に基づき、社会への還元を含む以下の活動を展開した。 ①視空間認知と計算能力に障がいのある非定型発達児者のディスミュジア(音楽性読み書き困難)の克服のために考案した新記譜法の実用化を図り、「子どものためのソルフェージュ」指導書を新記譜法にて開発した。 ②前年度に検証した「言語と記譜法が共有する属性は等時性の高いモーラ型リズム拍であることの生物学的根拠」に基づき、英語話者に特徴的にみられる音韻性ディスレクシアの発症要因は、モーラ型リズムからストレス型リズムへの韻律構造の再編成能力の欠如に由来すると結論した。当韻律構造再編のプロセスを理論化し、音節構造の新しい描写を国内外の学会にて発表した。 ③前年度に行った「学習熟達タイプへの文化的要素の影響」の検証に基づき、ウィリアムズ症候群言語クラブを開設し、10代のウィリアムズ症候群児者を中心に、日本固有の言語アートである紙芝居を使った社会的言語能力の開発活動を行った。知的障がい者の言語能力を社会的活動に結び付ける試みはまれであり、障害文化の新たな展開に一石を投じる礎と位置づけた。同時に、保護者を対象とするウィリアムズ症候群能力開発研究会を3回開催し、研究活動の社会への還元を図った。 ④社会への還元活動の結果、10代に達した非定型発達児が青年期を迎えるにあたって直面する問題について、保護者の間においても具体的なイメージとして認知されているとは限らないことが判明した。このため、特別支援学校の教員による講演を上記の研究会に組み込むと同時に、問題意識を共有し、深めるため、発達障害のある兄弟姉妹を持つ青年者間のネットワークの構築を目的として開催した「青年のフォーラム」とのコラボレーションを発達させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内外における成果発表は順調に進展している。また、日本固有の言語アートを基盤とするWS言語クラブ活動や保護者を対象とするWS能力開発研究会を展開するなど、社会性の開発を目的とするグループ活動と社会への還元活動も概ね良好に進展している。さらに、ディスミュージア(音楽性読み書き困難)の克服のために考案した新記譜法によるソルフェージュ指導書のプロトタイプもほぼ完了したが、最終確認自体は翌年度に持ち越すこととなった。また、フィリピン共和国で予定していた社会行動に関する問題解決能力の検証が、現地の治安状態の理由により、研究代表者の渡航計画が前年度に引き続き実施できず、学習熟達モデルの構築にあたり、文化的要素のパラメータとしての信憑性の検証が未完成となった。
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今後の研究の推進方策 |
承認された1年間の研究延長期間中に以下の項目を中心に活動を展開し、本研究の主要な課題である「メタ認知と学習熟達のモデル」を完成する。 ①上記したフィリピン共和国における調査を可能な限り実行する。 ②非定型発達児者の言語能力と社会行動について、日本文化固有の言語アートを基盤とする言語活動を続行し、多重知能の観点からより精緻な分析を行う。 ③視空間認知負荷を排除して考案し開発した新記譜法によるソルフェージュ指導書の最終確認を行い、試作冊子を完成する。 ④音韻性ディスレクシアのデータ分析から理論化した韻律構造再編のプロセスと音節構造の描写の妥当性を調音音声学の観点から検証し、理論を完成させる。 ⑤2018年度ウィリアムズ症候群協会ナショナルコンベンション(7月に米国ボルチモアにて開催)にて、保護者と教育関係者を対象とする教育セッションを提供し、本研究成果の社会的還元活動を行う。また、International Forum for Cognitive Modeling(10月イスラエルにて開催)にて本研究成果を発表し、メタ認知と学習熟達タイプの相関表を完成し、論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<理由>前述したとおり、ディスミュージア(音楽性読み書き困難)の克服のために考案した新記譜法によるソルフェージュ指導書の最終確認を年度内に十分行うことができなかった。また、フィリピン共和国で予定していた社会行動に関する問題解決能力の検証が、現地の治安状態の理由により前年度に引き続き渡航計画が実施できず、学習熟達モデルの構築にあたり、文化的要素のパラメータとしての信憑性の検証が未完成となった。より完成度の高い研究発表と社会への還元を翌年度に行うのが理想的と判断し、1年間の研究延長願いを提出した。
<使用計画>当年度に実施できなかった新記譜法によるソルフェージュ指導書の最終確認と試作品としての冊子印刷代に使う他、フィリピン共和国における調査費用に使用する。 更に、研究発表のための海外学会出張と調音音声学からの検証のための出張費用に使用する。また、本研究の幅広い社会的還元を図るため、ホームページの作成費用に充てる他、WS言語クラブ活動およびWS能力開発研究会をはじめとする社会への還元活動に使用する。
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