研究課題/領域番号 |
26286001
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
尾関 智二 日本大学, 文理学部, 教授 (60214136)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ナノ構造 / ポリオキソメタレート / 結晶構造制御 |
研究実績の概要 |
既に結晶化方法を確立した[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-(以下{Mo132}と表記する)のアンモニウム塩について、昨年度、高エネルギー加速器研究機構の放射光科学実験施設を利用して、結晶周辺の湿度を制御しながら単結晶回折パターンを1秒間隔で測定する手法を確立した。今年度は、実際に複数の結晶を使用して、回折パターンの湿度応答変化を測定したが、予備的実験において観測されていた可逆な構造変化が見られず、X線照射とともに結晶性が劣化することが観測されたのみであった。複数回の実験の結果、短い時間間隔で回折パターンを測定するために、照射X線強度を大きくしたため放射線損傷により結晶性が劣化したと考えられる。そのため、構造変化を追跡するためにはX線照射強度を最適化することが必要となった。そこで、最適な実験条件の探索を開始した。 一方、昨年度に引き続き、結晶化条件の詳細を検討する前提となる情報を得るために、ナノサイズ球状ポリ酸{Mo132}の溶液内での安定性を解明することを目的として、{Mo132}アンモニウム塩水溶液の吸光度変化を追跡した。2種類の試料濃度に対して実験を昨年度行ったところ、吸光度変化速度が顕著に異なる現象が見られたため、再現性を確認するために5種類の試料濃度で実験を行ったところ、吸光度変化速度が連続的に変化していることが明らかになった。さらに各濃度での吸光度変化について詳細に検討した結果、一段階反応では説明できず、少なくとも3つの段階を経由する多段階反応であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノサイズ球状ポリ酸[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-(以下{Mo132}と表記する)アンモニウム塩の単結晶状態での湿度応答構造変化追跡について、照射X線強度の最適化を検討しなければならないことが判明したため、当初の予定よりも進行が遅れることとなったが、改善すべき点が明確になり、今後の研究推進の方針が固まったことは、前向きに評価できると考えられる。 また、溶液内の{Mo132}の吸光度変化について、多段階反応であることが判明し、さらに、反応速度が濃度に依存して連続的に変化するという重要な知見を見出したことは大きな前進であると考えられる。 以上を総合的に判断すると、本研究は現時点でおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ナノサイズ球状ポリ酸[Mo132O372(CH3COO)30(H2O)72]42-(以下{Mo132}と表記する)単結晶の湿度応答挙動を単結晶回折により追跡する条件を確立するため、放射線損傷による結晶性劣化を最小限にするために照射X線強度を抑えつつ、構造変化の詳細な検討を可能にすべく、なるべく短い時間間隔(従って、一回の測定が短時間)で回折実験が行えるように、どこまで照射X線強度を大きくすることが出来るか、検討を行う。 また、{Mo132}の吸光度変化について、さらに広い濃度範囲及び時間範囲でのデータを蓄積し、吸光度変化の定式化を行うことにより、反応機構の解明を試みる。
|