研究実績の概要 |
平成29年度は、前年度途中から研究代表者が急遽、所外に出向することとなったため遅れが出ていたカーボンナノチューブのエナンチオマーに対するDNAの相互作用を調査する研究を中心に進めた。はじめに、右巻きと左巻きのカーボンナノチューブに対するDNAの相互作用について以前に行った方法で再現性が得られるかどうかを確認した。DNAには(6,5)カーボンナノチューブに選択的に相互作用することが知られているオリゴDNA (TAT)4(TAT配列の4回繰り返し配列をもつ12merのオリゴDNA)を用いた。右巻きもしくは左巻き(6,5)カーボンナノチューブを当該DNAで分散したものに、光学活性を持たない界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム[SDBS])を添加して光学スペクトルの変化を観測する。このDNAからSDBSへの置換されやすさを指標にDNAとカーボンナノチューブの相互作用が評価できる。結果として再現性を得ることが出来た。次いで、20℃から50℃まで10℃刻みで温度を変更して同様の実験を行ったところ、以下の二点が明らかとなった。(1)いずれの温度においても右巻き(6,5)カーボンナノチューブが左巻きのものより置換が遅い、つまり、DNAとの相互作用が強いということ、(2)右巻きと左巻きの(6,5)の両方で温度が高くなるにつれて置換が早く進む、つまり温度の上昇に伴いDNAとカーボンナノチューブの相互作用が弱まるということ、が明らかになった。以上より(TAT)4配列を持つオリゴDNAは、右巻きの(6,5)カーボンナノチューブに対して高い親和性を持つことが明らかとなった。このことは、DNA折り紙を用いたカーボンナノチューブのナノ配列制御を効果的に行うにはエナンチオマーをも分離したカーボンナノチューブを用いる必要があることと、配列によってどちらのエナンチオマーを使用するかを検討する必要性を示しており、今後の研究を進める上で重要な知見を得ることが出来た。
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