研究課題/領域番号 |
26286011
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 正洋 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80282333)
|
研究分担者 |
若山 裕 独立行政法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトロニクス研究拠点, MANA研究者 (00354332)
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20435598)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | カーボン系薄膜 / 有機半導体分子 / アルカリ金属 / 分子配置 / 電子物性 / 電子輸送 |
研究実績の概要 |
本年度は、有機半導体へ金属ドーピングの基礎的研究を行った。ここでは、アルカリ金属ドーピングにより超伝導化が報告されているpiceneやcoronene等の芳香族分子へのKドーピング、絶縁体-金属転移が報告されているphthalocyanine (Pc)分子へのKドーピングを研究対象とした。特に、構造が良く定義された単分子膜にアルカリ金属を添加した系をドープ系のモデルとした。分子レベル構造を走査トンネル顕微鏡で決定し、その電子状態を光電子分光で計測した。両者の比較から、電子状態変化に与えるに分子レベル構造の寄与を解析し、ドーピングによる電子状態改質機構を明らかにした。 picene及びcoroneneのKドーピングにおいて、分子膜の構造が大きく変化していることが観察された。この構造変化はpiceneおよびcoronene両者において類似性が見られた。このとき、分子膜の電子状態も変化し、Fermi準位近傍の電子状態密度が増加していることが観測された。この状態変化が系の超伝導化と密接に関連していることを示唆している。 一方、PcへのKドープにおいて、一分子当たり1-2原子の添加量の範囲で、K元素が分子間に吸着することで新たな秩序構造を形成することがわかった。しかし、それ以上のドーピングにおいてはKが分子上に吸着し、分子膜が無秩序化することが見られた。一方、電子状態の計測からは、ドーピングに伴い、K由来のあらたな状態密度の形成が確認されたものの、Fermi準位の状態密度には大きな変化はなかった。これはドーピングに由来する系の金属化及び絶縁体化は起こらないことを示す。このため、従来報告されてきた伝導性の変化は、分子膜構造の秩序化-無秩序化による可能性が高いことがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の分子の単分子層に対しアルカリ金属ドープを実施し、当初期待した、分子配置由来の変化と電子状態変化由来の変化を明確に分離して議論することが可能なった。ただし、実デバイスでは多分子層での計測が求められるが、構造の良く定義された多分子層を得ることは容易でないことが明らかになった。後者の部分については、H27年度に詳細に集中して検討を進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究を継続させ、有機半導体分子層へのアルカリ金属ドープにおいて、新たに形成された電子状態密度の空間分布計測(STM, 光電子強度の放出角度分布)、分散計測(ARPES)を詳細に行い、ドープされた電子の詳細な議論を行う予定である。 これまでの検討で、単分子層では構造が良く定義されているため、電子輸送特性の変化を、分子の状態変化を起源とするものと構造変化を起源とするものとに分離し、単分子層での検討は、現象の理解に極めて有効である事が明らかになってきている。しかし、実際のデバイスは単分子層のみで構成されておらず、これまで培ってきた単分子層形成の技術を多分子層に拡張することが求められている。先行研究及び昨年度に行った予備的検討から、これら有機半導体分子の成長形態は、膨大な研究の蓄積のある無機半導体結晶で見られるものとは著しく異なる事が明らかになっている。H27年度は、走査プローブ顕微鏡計測と組み合わせることにより、有機半導体分子の多分子層の安定な作製方法の確立めざすとともにその系に対するドーピングの検討を行う。 一方で、FETを形成して、マクロスケールでの電子輸送計測のための準備が整いつつある。デバイス作製・計測装置の立ち上げを完了させる。その上で、まだ十分に分子層形成の条件は整っていない段階ではあるが、実際にこの装置を稼働させ、アルカリ金属ドープの有機半導体分子層においてマクロスケールでの電子輸送測定を実施する予定である。適宜、分子層形成の検討結果を融合させ、電子輸送特性評価の質を向上させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
外部研究機関(KEK-PF)での実験を予定していたが、計測装置の不具合により予定の実験を行うことができなかった。また、実験の途中で、多分子膜での実験の重要性が明らかになり、多分子膜での実験を計画したものの実際に実験することができなかった。そのため、実験の繰り延べを行う必要が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
昨年度実験を行うことができなかった、外部研究機関での実験、及び多分子層での実験を今期早々に行う予定である。
|