研究課題/領域番号 |
26286014
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
齋藤 晃 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (50292280)
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研究分担者 |
内田 正哉 埼玉工業大学, 付置研究所, 教授 (80462662)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / らせん波 / 磁性 / 軌道角運動量 / ボルテックス |
研究実績の概要 |
研究課題は、電子らせん波をもちいて磁場および磁性体の磁性情報のイメージングを目指すものである。今年度は1)フォーク型回折格子をもちいた回復顕微法の開発、2)n回回転対称ピンホールをもちいた電子渦の生成、3)収束電子らせん波による収束電子回折図形の取得、を行った。 1)フォーク型回折格子をもちいた回復顕微法の開発: フォーク型回折格子を実空間拘束条件とする新しい回折顕微法の開発を行った。これまでの電子回折顕微法では、数10ナノメートルサイズのビーム自身および円形微小絞りにより実空間拘束条件を与えてきたが、正しい位相像が取得できないことが多く位相回復の精度に問題があった。フォーク型回折格子を制限視野絞り位置に挿入して回折顕微法を行ったところ、丸孔や通常の回折格子の場合に比べて位相回復精度が向上することを見出した。2)収束電子らせん波による収束電子回折図形の取得: フォーク型回折格子をもちいて生成した収束電子らせん波を試料に照射して得られる収束電子回折図形には、各回折ディスクに回折格子の像が現れ、ディスク内の回折強度がすべて観察できないという問題がある。今回、制限視野絞り位置に微小絞りを挿入して試料に照射される電子らせん波のひとつを選択することにより、回折格子で遮遮されてない収束電子回折図形を取得できることを実験および理論的に示した。3)n回回転対称ピンホールをもちいた電子渦の生成: n回回転対称をもつピンホールをFIBによるナノ加工により作成して電子顕微鏡に導入し、ピンホールを通過する電子による干渉パターンを観察した。その干渉パターンの位相回復を行ったところ、n=5, 7, 9の時に位相特異点が形成されることが判明した。このことは計算機シミュレーションでも確認することができた。この方法は位相特異点を含む電子ビームの生成法としての応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子らせん波と試料の局在磁気モーメントとの相互作用を観察するためにはサブナノメーター径の電子らせんビームが必要であると考えられている。当初、昨年度までにサブナノメーター径の電子らせんビームの生成を完了する予定であったが、電子顕微鏡のレンズパラメーターの最適化が十分に行えておらず、その目的が達成できてない。本研究課題の目的である磁気イメージングの達成のために、サブナノ電子らせん波は必要不可欠であり、今年度はその実現に向けて早急に取り組む予定である。しかしながら、電子らせん波をもちいた新しい回折顕微法の提案やn回回点対称ピンホールをもちいた特異点を多数含む電子波の生成など、本科研費申請当初には想定していなかった新しい成果も得られており、その点に関しては評価できるものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) サブナノメーター径の電子らせん波の生成:最新の電子顕微鏡装置では対物レンズの球面収差補正によりビーム径0.1nm以下の電子ビームが生成され、結晶中の単一の原子コラムにのみ電子線を照射することができる。フォーク型回折格子をもちいて生成した電子らせん波に対して同様の収差補正を行い、サブナノメーター径の電子らせん波の生成を試みる。 2) 磁性試料の伝播過程の観察:2-1) 強磁性垂直磁化膜と電子らせん波の相互作用の観察: Fe, FeNi, FePtなどの強磁性薄膜は、磁化の向きが膜面に垂直となることが知られている。膜面に垂直な方向から電子線を入射する場合、Fe原子のスピン磁気モーメントと電子らせん波の軌道角運動量の相互作用が顕著に現れることが期待される。これらの試料に軌道角運動量の向きおよび大きさの異なる電子らせん波を照射し、伝播過程を観察する。2-2) NiOは525K以下で反強磁性磁気秩序を示し、同一の(111)面上のNi原子の磁気モーメントがすべて揃い、隣接する(111)面上のNi原子の磁気モーメントが互いに反平行となる。この(111)面に垂直な入射で観察されるNiコラムにサブナノ電子らせん波を照射し、局在磁気モーメントの有無による違いを観察する。2-3) 原子核のクーロンポテンシャルが大きい希土類元素では、電子線がその原子コラムに強く局在してチャンネリングする。SmCo系およびNdFeB系など希土類元素を含む強磁性体試料の希土類原子コラムに電子線を照射し、局在スピンと電子らせん波の相互作用について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料ステージ2次元走査制御システムが当初導入を予定していたものよりも安価で導入できことが主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題の遂行に中心的に使用してきた、電子らせん波を生成する種々の電子線マスクのついた透過電子顕微鏡装置の電子線用CCDカメラ等に不具合が発生しており、そちらの保守費等に充当する予定である。
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