研究課題
NaYゼオライト細孔内部にイオン液体である1-ethyl-3-methyl-imidazolium tetracyanoborateを導入し、さらにアセチレンCVDを行うことでB, Nの異元素を含有するゼオライト鋳型炭素を合成した。H26年度には、比表面積が1500 m2/g、ホウ素含有量が3.2 wt%のゼオライト鋳型炭素の合成に成功していたが、H27年度にはアセチレンCVD条件の最適化を行い、比表面積1884 m2/g、ホウ素含有量3.0 wt%を達成した。これらの値は、過去に報告されているホウ素含有多孔性炭素材料を大幅に凌駕している。さらに、今回合成した異元素含有ゼオライト鋳型炭素は過去には例が無い規則性ミクロ細孔を有しているため物質移動での優位性も期待できる。合成したBN含有ゼオライト鋳型炭素の電気化学キャパシタの電極材料としての性能評価を有機電解液中(1M EtN4BF4/PC)にて実施した。その結果、異元素ドープによる比容量の増加が確認でき、また未ドープのゼオライト鋳型炭素に比べてレート特性が向上した。ゼオライト鋳型炭素のポスト修飾による異元素導入に関する検討も行った。EtN4BF4/PC電解液中で適切な電位範囲で掃引することで、ゼオライト鋳型炭素のエッジサイトにキノン型およびフラン型の含酸素官能基を導入することができ、なおかつこれらの官能基は可逆的な酸化還元反応により疑似容量を発現することがわかった。従来から活性炭等の多孔性炭素においても有機電解液中での疑似容量発現が示唆されていたが、今回は活性炭に比べて約10倍ものエッジサイトをもつゼオライト鋳型炭素を用いることで、この疑似容量発現の起源を明らかにすることができた点でも意義が大きい結果と言える。さらに、ゼオライト鋳型炭素および一般の炭素材料のエッジサイトの電気化学的な反応性に関する基礎的検討も実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
申請当初は、イオン液体を原料としたヘテロ原子含有ゼオライト鋳型炭素の調製を目的としていたが、この目標はおおむね達成できた。ホウ素を含有する多孔性炭素の合成は難易度が高く、従来の研究では高いホウ素含有量(1 wt%以上)と高比表面積(1000 m2/g以上)の達成は極めて困難であった。しかし本研究においては、イオン液体を原料としてゼオライトを鋳型とすることで、従来は達成不可能であった3.0 wt%のホウ素含有量と1884 m2/gの高比表面積の両立を達成できた。合成した異元素導入ゼオライト鋳型炭素の電気化学キャパシタの電極材料としての特性を評価するため、有機電解液中での測定を実施した結果、従来の未ドープ試料に比べて高いレート特性を達成した。また、ポスト修飾によるゼオライト鋳型炭素への異元素導入についても、多機関との共同研究として検討を進めた結果、酸化チタンナノ粒子や白金ナノ粒子の導入による光触媒能および水素化触媒能の付与に成功した。また、電気化学的手法によるレドックス活性種の導入による疑似容量の発現にも成功しており、電気化学的手法における官能基の導入メカニズムに関する基礎的検討も進めている。このように、ポスト修飾法によるゼオライト鋳型炭素への異元素導入および機能化に関しても多くの成果が得られており、従来の計画以上に研究が進展している。さらに、ゼオライト鋳型炭素および一般の炭素材料のエッジサイトの電気化学的な反応性に関する基礎的検討を進めており、水素終端エッジサイトが重要な役割を果たしている点が明らかになりつつある。エッジサイトの反応性は異元素導入のみならず、炭素材料の腐食や劣化に関する有用な知見を与えるため、産業界から特に注目されている。
最終年度は、既に合成に成功しているBN含有ゼオライト鋳型炭素のXPSや電子顕微鏡による構造解析を進め、論文化を目指す。また、窒素のみをドープしたゼオライト鋳型炭素に関しても、電気化学キャパシタの特性評価を進める。異元素含有ゼオライト鋳型炭素の合成方法に関しては、当初から計画していたイオン液体を用いる方法に加え、ポスト修飾による手法もほぼ確立することができた。しかしゼオライトを鋳型として用いるデメリットとして、細孔の形状が鋳型で決まってしまう点と、合成コストが高い点が課題として残っている。そこでこれらを解決するため、鋳型フリーでの異元素含有規則性多孔質炭素の合成にも挑戦する。平成27年度には予備的検討を実施しており、有機系分子結晶の中には炭素化してもその規則構造を保つものがあることを見出している。そこで、分子設計や熱処理による構造変化の過程を詳細に検討することで、有機系分子結晶の炭素化による異元素含有規則性多孔質炭素の合成を目指す。また、ゼオライト鋳型炭素および一般の炭素材料のエッジサイトの反応性に関する検討は炭素材料科学にとって非常に重要な基礎的知見となるため、引き続き検討を進める。
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Energy Storage Materials
巻: 1 ページ: 35-41
10.1016/j.ensm.2015.08.003
Boletin del Grupo Espanol del Carbon
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http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/kyotani/nishihara/nishihara.html