本年度はインナーシェルにCdZnSの合金系化合物の導入とCuInS2/CdS/ZnSマルチシェルナノ粒子の合成を試みた。CdZnSインナーシェルについて、原料として酢酸カドミウムや酢酸亜鉛等を用いた結果、インナーシェルに由来する吸収波長がこれまでのCdSよりも短くなったことが確認できた。また透過電子顕微鏡での元素分析で、インナーシェルからCdとZn、Sが検出されたことから目的の化合物が形成されたことがわかった。このコアシェル粒子に対してアウターシェルとしてZnSでの被覆を行ったが、発光効率は従来以上のものは得られなかった。コアとインナーシェルの界面ひずみの影響も考えられるが、CdZnSの結晶性がCdSに比べると低かったことから、インナーシェルの結晶性が反映されたものと考えられる。CuInS2/CdS/ZnSマルチシェルナノ粒子については、これまでに合成したCuInS2/ZnSよりも発光効率が高くなり、マルチシェル化の効果が確認できた。しかし、粒子の均一性はCdSe系が良かった。また、蛍光スペクトルの半値幅は80~100nm程度と従来とほぼ同等で改善されなかった。この広い半値幅はCuInS2の内部欠陥に由来するものと考えられる。これらの合成した試料について、前年度までに確立した、高エネルギー分解能を電子線損失エネルギー損失分光(EELS)で、ナノ粒子1個ずつの誘電特性評価を行う予定である。研究成果について、招待講演2件、国際学会1件、国内学会3件の学会発表と、1報の論文発表を行った。
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