昨年度までに次のようなことを達成した: 1) 任意方向の外部磁場を印加してダイヤモンド内のNVセンターのODMRスペクトルを測定できる装置を開発するとともに、ダイヤモンドナノ粒子の向きを正確に決定するための制御・解析プログラムを作製した。 2) クラミドモナス鞭毛軸糸の微小振動を測定するために、ビオチン化修飾したダイヤモンドナノ粒子表面に、ストレプトアビジンを介してビオチン化修飾した鞭毛軸糸を結合させた。ダイヤモンドのODMRスペクトル変化から微小振動の様子を明確に示すデータは得られなかったが、これは軸糸の振動によるダイヤモンド粒子の運動が主に並進方向に起こり回転角はごく小さかった可能性が考えられる。3) そこで、大きな角度変化が期待される、細胞膜を形成する膜タンパク質に着目した。膜タンパク質であるEGF受容体が多数存在するヒト上皮様細胞癌由来のA431細胞を用い、抗EGF受容体抗体を介してそのEGF受容体にダイヤモンドナノ粒子を特異的に標識し、ODMRスペクトルを数分毎に測定しダイヤモンドナノ粒子の向きを逐次決定することで、EGF受容体の動きを観察することができた。本年度はこれらを踏まえて、細胞膜骨格の強度を変化させる試薬を作用させ、EGF受容体の膜内運動を観察した。EGFを添加した結果、EGF受容体の動きが抑制された。反対にラトランキュリンA処理し、アクチンフィラメントを脱重合させると、EGF受容体すなわち細胞膜の動きが激しくなった。以上のように、今回我々が開発した手法を用いることで、細胞膜のゆらぎ運動を検出することができるようになった。今後は、様々な生体分子ダイナミクス計測に発展させていこうと考えている。
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