研究課題/領域番号 |
26286029
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
飯田 琢也 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10405350)
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研究分担者 |
床波 志保 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (60535491)
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10372632)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 分析科学 / 分子認識 / 光ピンセット / 計測工学 |
研究実績の概要 |
光誘起力による分子認識制御の原理を解明し、レーザー光を照射するだけの簡単操作で極微量の生体物質を短時間で簡便に検出できる革新的バイオセンサのプロトタイプを開発し、遺伝子疾患やアレルギーの早期診断技術や医薬品等の分離分析技術の発展に貢献することが目的である。初年度はDNAを表面に付したプローブ粒子と微量のターゲットDNAの特異的結合を光照射で加速するための原理を解明して、バイオセンサの最小構成の試作への方向性を定めることが目標であった。塩基配列の異なるDNAをターゲットとして用いた場合にミスマッチ数が少なく相補性が高いほど、ハイブリダイゼーションが効率良く起こり短時間でプローブ粒子とターゲットDNAが大きな集合体を形成し、光学スペクトルも顕著に変化することが分かった。また、光誘起の流体効果が集合現象に重要な役割を果たす可能性を示唆する結果も得られ始めている。さらに、理論的アプローチにより分子認識の光制御可能性を明らかにするため、エネルギー領域で自己無撞着に決定された応答電場の下での光誘起力によるナノ粒子の配列現象をシミュレートできる「光誘起力ナノ動力学法(LNDM)」を改良し、プローブ分子とターゲット分子間の特異的結合をモデル化して評価できる「分子認識メトロポリス法(MRMM)」を開発した。この手法により、ターゲットとして相補鎖DNAと完全ミスマッチDNAのそれぞれを用いた場合に、前者はハイブリダイゼーションが光誘起力により加速されて大きな集合体を形成し、後者は全く集合体を形成しないことが分かり、実験で観測された光集合現象の初期過程に関する重要な知見を得た。このMRMMを用いた新たな展開として、より大きな生体構造の低周波電場中での挙動に関する初歩段階の知見も得られ始め、多様な分子認識制御の可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、平成26年度の研究実施計画に記載していた『DNAハイブリダイゼーションの光制御の原理解明』と『DNAとプローブ粒子の光集積現象のシミュレーション』については大きな進展があり、国際特許の出願を行い(特許庁での国際調査報告で全請求項について進歩性、新規性、産業上の利用可能性「有」との高い評価を受けた)、原理解明についての取組の成果も一流論文誌への投稿を完了した。さらに、光誘起の流体現象がプローブ粒子とターゲット分子の集合化に重要な役割を果たすことを示唆する重要な知見が得られ、新規理論手法であるMRMMのプロトタイプが完成し誘電泳動も含む幅広い分子認識の外場制御の可能性も示唆できた。以上の内容を鑑みても、当初の計画以上に進展していると評価できる。 ※本課題と関連し、以下の受賞2件があったことも特筆すべき点である。 [1] Excellent in Poster award (2014 2nd TKU-OPU and 4th TKU-ECUST-OPU-KIST International Symposium)(2014/9/25-27, 於:台湾) 、発表者:Y. Nishimura, K. Nishida, Y. Yamamoto, S. Ito, S. Tokonami, T. Iida [受賞者:Y. Nishimura]、受賞日: 2014/9/26 [2] Best Poster Award (The XXVth IUPAC Symposium on Photochemistry)(2014/7/13-18Bordeux, France)、発表者:M. Tamura, T. Iida [受賞者:M. Tamura]、受賞日: 2014/7/18
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に向けた準備状況として、プローブ粒子集合体の局在表面プラズモンの共鳴波長に近いレーザー光源の整備も完了しており、集合体の形成・解離に関する興味深い予備実験のデータが得られ始めている。この作業を継続し、共鳴励起下での物質間光誘起力や発熱効果のハイブリダイゼーションへの影響を引き続き調べる。さらに、マイクロ流体チップを用いたプローブ粒子とターゲットDNAの狭小空間での高効率集合化の準備も整って来ており、初年度に導入した空間位相変調器により多点の光トラップ形成にも成功しておりマルチアッセイシステムの構築のための準備も万端である。加えて、近接場測定によるDNA-プローブ粒子複合体の局所的な光物性評価に関しても初期の計測は開始しており、ファーフィールドでの分光とは異なる光学特性が得られる可能性も期待される。これらの準備状況からも次年度の研究推進の見通しも非常に明るい。
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備考 |
プローブ粒子の光学特性と関連した成果[A. Kosuga*, T. Iida*, S. Tokonami, et al. Nanoscale 7, 7580 (2015).]が日経産業新聞(2015/4/28)等のメディアで紹介された。 本課題でも重要なベクトルビームによるナノ物質配列制御に関する特許[特願2010-227627、特許5688794号、2015/2/6]が権利化された点も付記する。
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