研究課題/領域番号 |
26286032
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
関 実 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80206622)
|
研究分担者 |
山田 真澄 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30546784)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | マイクロ流体システム / 細胞分離 / マイクロフルイディクス / セルソーター / 組織工学 |
研究実績の概要 |
初年度となる平成26年度は,主に細胞ソーティングの高処理量化を目指した基盤技術開発として,以下の課題に取り組み,成果を出すことができた。 (1)これまでに開発を行ってきた水力学的濾過法について,臨床応用を視野に入れ,希釈血液からの白血球の除去・血小板の除去・赤血球の濃縮,という3つの課題を同時に可能とする流路システムの設計・作製を行い,赤血球濃縮の可能性を示すデータを得ることができた。 (2)細胞ソーティング用並列化流路の作製を行い,最大で128流路が単一のデバイスに統合化された複合化流体デバイスを構築することができた。 (3)非対称に配置した格子状の流路構造を用いた新規細胞分離・選抜装置を開発し,流路の形状や操作条件が細胞選抜に影響を与える要因を評価した。当デバイスは流路の閉塞という問題が起こりにくく,また分離サイズの制御が容易であるという点で優れている。主に標準粒子を用いて分離性能評価を行い,粒子の挙動を詳細に観察することで,分離に与える要因の評価と分離メカニズムの解明を行った。また,細胞分離については,特に希釈血液からの単球のワンステップ選抜が可能となることを,血球自動計測器や免疫蛍光染色による観察によって示した。 (4)格子状流路を8個並列化した流路構造,そしてそれをさらに平面状に複数総積層化した流路構造の作製を行い,毎分1 mL程度の処理が可能であることを確認した。 (5)段差のある格子状流路構造の設計と作製を行ったところ,平面的な格子状流路構造とは全くことなる原理による細胞分離の可能性が示唆された。これらのほかにも,ピラーアレイ構造流路・ハニカム状流路などの設計を検討したほか,エルトリエーション流路の開発を行った。また,培養細胞を中心として,多様な細胞の選抜への適用可能性を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単一の流路構造については,特にサイズに依存した分離を達成する流路構造について,水力学的濾過法を用いた血球分離の実証および新規に開発した格子状流路構造の有用性をそれぞれ実証することができた。なお,処理量の向上については,当初の予定より前倒しで,並列化流路の作製による毎分1ミリリットルのサンプル処理を実現でき,実用化にむけた大きな課題の一つをクリアできたと言える。また,単球の分離といった,既存の手法では通常困難であった細胞選抜を高精度かつ簡便に可能とするシステムの開発に成功したことは特筆すべきことであると考えられる。ただし,表面マーカーを用いた分離法については,細胞を磁気標識した場合の分離は可能であるものの,流路表面は標識され細胞は標識されていない場合の分離は完全には達成されていないため,2年度目以降の課題としたい。
|
今後の研究の推進方策 |
まず,前年度までに開発した細胞分離システムのさらなる改良と応用を行う。特に,格子状の流路を用いた細胞分離については,血液細胞を対象として,単球の分離や循環がん細胞などの分離目的に応じた分離システムの構築を目指す。また,更なる高処理量化については,平面的な流路構造を10~30ほど並列化することで,単一流路の100倍程度の細胞処理(数10ミリリットル毎分:~107細胞/分)を可能とするシステムの開発を目指す。さらも,直列接続によるマルチパラメーター分離に関しては,サイズによる分離に加え,変形能や表面マーカーなどの要因を加えた複数因子による分離手法の開発を行う。加えて,マイクロ流路エルトリエータ―システムを用いた比重差分離技術については,細胞の分離のみならず,血液中の微小粒子をターゲットとした分離を可能とするシステムの設計を行いたい。 また,平面型流路構造における分離メカニズムの詳細な解析を行う。主に共焦点PIVやハイスピードイメージングを用いて,モデル粒子の分離挙動を観察することで,設計値と実際の分離挙動の差異を評価し,特定のターゲット細胞を高純度で選抜する技術の改良に資するパラメーターを探索する。また,得られた指針をもとに,一般的な動物細胞(直径~10 μm)とはサイズの異なる微生物(バクテリア,ウイルスを含む)や細胞内小器官(核,ミトコンドリア,小胞体など)の分画に適用可能な流路構造の作製を行う。これらの検討を通して,引き続き流路技術を用いた細胞分離システムの実用化を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度の繰越金90万円弱が生じたが,これは流路作製の回数が想定より少なかったこと,特に費用がかかるフォトマスクの作製において,共同研究先の企業からの資金提供があり,同時に発注することによって価格が抑えられたこと,などの理由が挙げられる。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度においては,ほぼ当初の予定通りの執行を行う予定であるが,細胞解析用試薬などに費用が掛かると予想されるため,今回の繰越金はそれらの購入に充当させる予定である。
|