研究課題/領域番号 |
26286037
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
植村 隆文 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (30448097)
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研究分担者 |
竹谷 純一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20371289)
岡本 敏宏 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (80469931)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / フレキシブルエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究では、本研究最終年度の目標である「革新的性能を有するフレキシブル論理回路の実現」に向け、フレキシブル基板上でのデバイス作製と性能評価・改善に着手した。これまで、SiO2基板上での基礎実験において、有機トランジスタにおける接触抵抗の低減に向けたプロセス最適化を検討してきた。その結果、トップコンタクト電極の蒸着時の基板温度の冷却、不活性ガス中でのアニール処理によって、接触抵抗が低減可能であることを見出し、トップコンタクト電極蒸着時に生じる有機半導体分子結晶の乱れが、アニール処理によって修復されるという結論を得ている。平成27年度の研究では、フレキシブル基板上での有機トランジスタ素子特性の評価を行い、SiO2基板上と同様の接触抵抗低減プロセスが適応可能かどうかを検証した。特に、有機トランジスタの回路応用を意識し、pseudo-CMOS回路による微小信号増幅回路の作製を目的とした実験を行った。実験では、ガラス基板上と、フレキシブル基板上、2種類の基板上でのデバイス作製を行った。その結果、ガラス基板上での有機トランジスタ素子特性と比較して、フレキシブル基板上での接触抵抗が大きくなっている事が明らかとなった。また、接触抵抗はフレキシブル基板の厚みによっても変化し、基材厚みが薄い方が良いことを見出した。大きな接触抵抗を改善する方法として、本研究におけるこれまでのSiO2基板上での知見を活かし、電極蒸着時の基板温度を低く設定することによって、改善可能であることを明らかにし、これまでの研究成果がフレキシブル基板上でも有用であることを示した。また、微小信号増幅回路として、10 uVの微小信号入力を1000倍にまで増幅することに成功し、有機トランジスタを利用した増幅回路性能としては世界最高の値を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、「実デバイスにおける金属・有機半導体界面の物理に関する理解を深め、その理解に基づいて素子の作製プロセスを最適化することにより革新的性能を有するフレキシブル論理回路を実現する」ことを目標として研究を進めている。平成26年度には、基礎評価として、SiO2基板上に有機トランジスタを形成し、100Ω・cm以下の低い接触抵抗を実現する作製プロセスについて、断面の透過型電子顕微鏡観察、四端子測定法などを駆使してその原因究明を行うことに成功している。また、有機トランジスタの回路応用を目標として、アルミナ絶縁膜上にて実際の短チャネルデバイスの作製に着手し、チャネル長2umの有機トランジスタをフォトリソグラフィー技術によって作製することに成功している。作製したデバイスでは世界最小の接触抵抗50Ω・cmが得られ、理論上、20MHz駆動が可能なデバイスを実現した。不活性ガス中でのアニールによる接触抵抗の低減プロセスについては、平成27年度、その成果を論文にまとめ、国際的に評価の高い学術論文誌「Advanced Materials(2015年インパクトファクター17.49)」に採択された。平成27年度には、フレキシブル論理回路の実現に向け、有機トランジスタによるフレキシブルデバイスの作製を行った。フレキシブル基板上ではガラス基板上に比べて接触抵抗が増大する事を明らかにすると共に、SiO2基板上での研究で得た知見を活かし、フレキシブル基板上において、接触抵抗を低減するプロセスを開発することに成功した。以上、平成28年度における、「革新的性能を有するフレキシブル論理回路」の実現に向け、着実に研究が進展しており、また計画当初には予想しなかった問題についても解決方法を見出すことに成功していることから、計画以上の進捗が得られていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、本研究最終年度の目標である「革新的性能を有するフレキシブル論理回路の実現」に向け、フレキシブル基板上でのデバイス作製と性能評価・改善を更に進める予定である。本研究の計画時には、従来と比べ非常に高速な100MHz駆動が可能な有機トランジスタの開発を目標としていた。平成26、27年度の研究において、フレキシブル基板上での接触抵抗の低減プロセス開発に目途を付けることに成功したため、現在はより実用的な有機トランジスタ回路の作製を目標として研究を進めている。既に有機薄膜トランジスタの回路応用として、微小信号増幅回路の作製に取りかかっており、p型のトランジスタ4個からなる、pseudo-CMOS回路を用いた反転増幅回路の作製に成功している。信号増幅性能としては、10 uVの微小信号入力を1000倍にまで増幅することに成功し、増幅性能としては世界最高の値を達成している。開発した有機トランジスタ回路は駆動電圧3V以下で性能を発揮し、バッテリー駆動が可能であるため、ワイヤレスセンサへの応用が可能である。今年度も引き続き、研究分担者らと協力し、高移動度p型有機半導体材料を用いたデバイス作製により、デバイス性能を向上し、フレキシブル回路の実現とワイヤレスセンサのデモンストレーションなどに向け、準備を整える。また、現状において得られている成果を国内外の学会、学術誌を通して発信し、微小信号の計測が可能なワイヤレスセンサなど、産業的にも重要な成果は特許取得やマスコミを通して社会・国民に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度、新たに多端子測定用プローバーと、低温クライオスタットを導入し、実験に使用する高額設備の多くを整えることができた。デバイス作製、評価のための物品費が予想よりも低額で済んだこと、予想していた成果論文の投稿費用が平成28年度に計上されることになったため、当該次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に、デバイス作製、評価のための物品費、または論文投稿費用として、繰越助成金を使用する予定である。
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