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2015 年度 実績報告書

レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御

研究課題

研究課題/領域番号 26286042
研究機関大阪大学

研究代表者

森 勇介  大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90252618)

研究分担者 吉川 洋史  埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50551173)
研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード結晶多形 / レーザー誘起核発生 / キャビテーションバブル / 有機低分子 / タンパク質結晶
研究実績の概要

H27年度には、技術汎用化の鍵となる【超音波印加技術】による準安定相の晶出条件について、アセトアミノフェンをモデル物質として研究を行った。その結果、微量の溶液(~数ml程度)までであれば、過飽和度(σ:溶液の濃度に対応、数値が大きいほど濃度が高い)3.7の溶液において、28kHz、45kHzの周波数で超音波を印加すれば品質の良い準安定相が得られることが分かった。
また、多種多用な物質への技術適用を念頭に置き、これらの超音波印加条件が幅広い過飽和条件に対しても適用可能かどうかを調査した。その結果、過飽和度が低い条件(σ=1.2)の条件では、準安定相の晶出は可能であるが、結晶化誘起自体が難しく、準安定相の結晶化確率は10%程度にとどまった。一方、高すぎる過飽和条件(σ=4.5以上)に超音波を印加した場合、準安定相に混ざって安定相も結晶化してしまうことが明らかになった。この場合、1日後には容器内の結晶がすべて安定相に相転移してしまった。結論として、超音波印加技術を適用し、目的の準安定相のみを得るためには、最適な溶液濃度に調整する必要があり、その過飽和条件はアセトアミノフェンの場合でσ=2.0~4.0程度という中間的な範囲であることが分かった。結晶化のキーパラメータとなる過飽和度は物質固有の溶解度によって決まるものであり、溶解度は溶媒によっても大きく異なる。今回の知見で重要なのは、過飽和度の絶対値ではなく、特定の物質に対し、結晶化が実現する過飽和範囲の中庸程度で超音波印加技術が適切に効果を発揮することが明らかになった点である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

様々なレーザー照射条件について検証を行ってきた結果、H26年度には有効なレーザー照射条件や位置が明らかになった。そして、結晶化の詳細なその場観察により、平成27~28年度に予定していた「レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御の原理解明」に関して、既に以下の2点が明らかになった。
(1)本質的には、キャビテーションバブル崩壊後に発生する残留気泡が重要であり、気泡が固体(容器壁)-気体-液体界面に存在する際には局所的な高過飽和が実現するため、準安定相が優先的に結晶化する。
(2)準安定相の固-気-液界面での結晶化がトリガーとなり速やかに次の結晶化が加速されることで、過飽和度が急速に低下する。その結果、安定相の結晶化が起こりにくい環境が実現する。
また、超音波でも準安定相を優先晶出可能な条件が明らかになっているなど、研究はおおむね計画通りに進行している。

今後の研究の推進方策

今年度は、レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御が高効率に行える条件をもとに、本技術の汎用性を高めることを目的として研究を推進する。
汎用化の柱の一つは、レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御技術が複数のモデル物質で有効であることを示すことである。これまでに水溶性物質であるアセトアミノフェン、難水溶性物質であるインドメタシンにおいて本技術が有効であることを示してきた。今年度は、例えばリピトール、ブラビックスなどの有機化合物の他、複数の結晶多形が知られている鶏卵白リゾチーム等のタンパク質にも適用を試みる。
汎用化の柱の二つ目は、本技術のスケールアップである。これまでのレーザーによる多形制御は、ごく微量(~数ml程度)の溶液で行われていた。将来創薬支援技術とするためには、より多量な結晶を一度に得られるよう求められる。これまでの研究により、多形制御にはレーザー照射時に発生するキャビテーションバブルおよびその後に発生する残留気泡などの気液界面が重要であることが分かってきた。技術のスケールアップには、本質的に重要なこれらのバブルをどう作り出すかという視点に立ち戻り、超音波によるキャビテーションバブル発生技術などにも着眼していく。これまで、微量の溶液(~数ml)に対してであれば、超音波の印加によって特定の周波数で準安定相が選択晶出可能なことも分かってきた。この技術をより多量の溶液に対しても適用可能なようスケールアップしていく。
最終的には、得られた準安定相が長時間安定であり、将来薬剤として期待できるだけの品質を有していることが必要である。そのため、種々の技術で得られた準安定相に関して、加速試験などを行うことで安定性評価も行っていく。

次年度使用額が生じた理由

購入した半導体レーザーが当初予定額より若干の誤差が生じたため。

次年度使用額の使用計画

28年度において、光学部品などに使用する予定

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)

  • [雑誌論文] Selective crystallization of metastable phase of acetaminophen by ultrasonic irradiation2015

    • 著者名/発表者名
      Y. Mori, M. Maruyama, Y. Takahashi, K. Ikeda, S. Fukukita, H. Y. Yoshikawa, S. Okada, H. Adachi, S. Sugiyama, K. Takano, S. Murakami, H. Matsumura, T. Inoue, M. Yoshimura, and Y. Mori
    • 雑誌名

      Applied Physics Express

      巻: Vol.8, No.6 ページ: 065501-1-4

    • DOI

      http://dx.doi.org/10.7567/APEX.8.065501

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] Highly concentrated millimeter sized domain of lysozyme clusters by laser trapping2015

    • 著者名/発表者名
      Shimpei Nishimura, Hiroshi Y. Yoshikawa, Seiichiro Nakabayashi, Ken-ichi Yuyama, Teruki Sugiyama, Hiroshi Masuhara
    • 学会等名
      PACIFCHEM(環太平洋国際化学会議)2015
    • 発表場所
      the Hawaii Convention Center(Honolulu, Hawaii, USA)
    • 年月日
      2015-12-15 – 2015-12-20
    • 国際学会
  • [学会発表] 超音波印加で得たアセトアミノフェンⅡ形の安定性に及ぼす過飽和度の影響2015

    • 著者名/発表者名
      福喜多俊, 丸山美帆子, 森陽一朗, 高橋義典, 吉川洋史, 岡田詩乃, 安達宏昭, 杉山成, 高野和文, 村上聡, 松村浩由, 井上豪, 吉村政志, 森勇介
    • 学会等名
      第45回結晶成長国内会議(NCCG-45)
    • 発表場所
      北海道大学学術交流会館(北海道・札幌市)
    • 年月日
      2015-10-19
  • [学会発表] Agナノ粒子の光学捕捉により誘起されるNaClO3キラル結晶化過程その場観察2015

    • 著者名/発表者名
      新家寛正, 杉山輝樹, 丸山美帆子, 田川美穂, 村山健太, 原田俊太, 宇治原徹, 森勇介
    • 学会等名
      第45回結晶成長国内会議(NCCG-45)
    • 発表場所
      北海道大学学術交流会館(北海道・札幌市)
    • 年月日
      2015-10-19
  • [学会発表] 医薬化合物アセトアミノフェンの結晶多形制御2015

    • 著者名/発表者名
      森陽一朗, 丸山美帆子, 髙橋義典, 吉川洋史, 岡田詩乃, 安達宏昭, 杉山成, 高野和文, 村上聡, 松村浩由, 井上豪, 吉村政志, 森勇介
    • 学会等名
      第39回結晶成長討論会
    • 発表場所
      同志社びわこリトリートセンター(滋賀県・大津市)
    • 年月日
      2015-09-24 – 2015-09-26
  • [学会発表] Agナノ粒子を含んだNaClO3溶液からの円偏光レーザー誘起キラル結晶化におけるエナンチオ選択的増幅2015

    • 著者名/発表者名
      新家寛正, 杉山輝樹, 田川美穂, 村山健太, 原田俊太, 丸山美帆子, 森勇介, 宇治原徹
    • 学会等名
      第76回応用物理学会秋季学術講演会
    • 発表場所
      名古屋国際会議場(愛知県・名古屋市)
    • 年月日
      2015-09-13
  • [学会発表] Fluorescence microscopic study of laser trapping cluster assembling of hen egg white lysozyme2015

    • 著者名/発表者名
      S. Nishimura, H. Y. Yoshikawa, Seiichiro Nakabayashi, Ken-ichi Yuyama, Teruki Sugiyama, Hiroshi Masuhara
    • 学会等名
      2015年光化学討論会
    • 発表場所
      大阪市立大学杉本キャンパス(大阪府・大阪市)
    • 年月日
      2015-09-09 – 2015-09-11
  • [学会発表] SELECTIVE CRYSTALLIZATION OF ACETAMINOPHEN POLYMORPH WITH HIGH SOLUBILITY2015

    • 著者名/発表者名
      Y. Mori, M. Maruyama, Y. Takahashi, H. Yoshikawa, S. Okada, H. Adachi, S. Sugiyama, K. Takano, S. Murakami, H. Matsumura, T. Inoue, M. Yoshimura, and Y. Mori
    • 学会等名
      20th American Conference on Crystal Growth and Epitaxy (ACCGE-20)
    • 発表場所
      Big Sky Resort(Big Sky, Montana, USA)
    • 年月日
      2015-08-03
    • 国際学会

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公開日: 2017-01-06  

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