研究課題
H27年度には、技術汎用化の鍵となる【超音波印加技術】による準安定相の晶出条件について、アセトアミノフェンをモデル物質として研究を行った。その結果、微量の溶液(~数ml程度)までであれば、過飽和度(σ:溶液の濃度に対応、数値が大きいほど濃度が高い)3.7の溶液において、28kHz、45kHzの周波数で超音波を印加すれば品質の良い準安定相が得られることが分かった。また、多種多用な物質への技術適用を念頭に置き、これらの超音波印加条件が幅広い過飽和条件に対しても適用可能かどうかを調査した。その結果、過飽和度が低い条件(σ=1.2)の条件では、準安定相の晶出は可能であるが、結晶化誘起自体が難しく、準安定相の結晶化確率は10%程度にとどまった。一方、高すぎる過飽和条件(σ=4.5以上)に超音波を印加した場合、準安定相に混ざって安定相も結晶化してしまうことが明らかになった。この場合、1日後には容器内の結晶がすべて安定相に相転移してしまった。結論として、超音波印加技術を適用し、目的の準安定相のみを得るためには、最適な溶液濃度に調整する必要があり、その過飽和条件はアセトアミノフェンの場合でσ=2.0~4.0程度という中間的な範囲であることが分かった。結晶化のキーパラメータとなる過飽和度は物質固有の溶解度によって決まるものであり、溶解度は溶媒によっても大きく異なる。今回の知見で重要なのは、過飽和度の絶対値ではなく、特定の物質に対し、結晶化が実現する過飽和範囲の中庸程度で超音波印加技術が適切に効果を発揮することが明らかになった点である。
2: おおむね順調に進展している
様々なレーザー照射条件について検証を行ってきた結果、H26年度には有効なレーザー照射条件や位置が明らかになった。そして、結晶化の詳細なその場観察により、平成27~28年度に予定していた「レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御の原理解明」に関して、既に以下の2点が明らかになった。(1)本質的には、キャビテーションバブル崩壊後に発生する残留気泡が重要であり、気泡が固体(容器壁)-気体-液体界面に存在する際には局所的な高過飽和が実現するため、準安定相が優先的に結晶化する。(2)準安定相の固-気-液界面での結晶化がトリガーとなり速やかに次の結晶化が加速されることで、過飽和度が急速に低下する。その結果、安定相の結晶化が起こりにくい環境が実現する。また、超音波でも準安定相を優先晶出可能な条件が明らかになっているなど、研究はおおむね計画通りに進行している。
今年度は、レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御が高効率に行える条件をもとに、本技術の汎用性を高めることを目的として研究を推進する。汎用化の柱の一つは、レーザーキャビテーションバブルによる結晶多形制御技術が複数のモデル物質で有効であることを示すことである。これまでに水溶性物質であるアセトアミノフェン、難水溶性物質であるインドメタシンにおいて本技術が有効であることを示してきた。今年度は、例えばリピトール、ブラビックスなどの有機化合物の他、複数の結晶多形が知られている鶏卵白リゾチーム等のタンパク質にも適用を試みる。汎用化の柱の二つ目は、本技術のスケールアップである。これまでのレーザーによる多形制御は、ごく微量(~数ml程度)の溶液で行われていた。将来創薬支援技術とするためには、より多量な結晶を一度に得られるよう求められる。これまでの研究により、多形制御にはレーザー照射時に発生するキャビテーションバブルおよびその後に発生する残留気泡などの気液界面が重要であることが分かってきた。技術のスケールアップには、本質的に重要なこれらのバブルをどう作り出すかという視点に立ち戻り、超音波によるキャビテーションバブル発生技術などにも着眼していく。これまで、微量の溶液(~数ml)に対してであれば、超音波の印加によって特定の周波数で準安定相が選択晶出可能なことも分かってきた。この技術をより多量の溶液に対しても適用可能なようスケールアップしていく。最終的には、得られた準安定相が長時間安定であり、将来薬剤として期待できるだけの品質を有していることが必要である。そのため、種々の技術で得られた準安定相に関して、加速試験などを行うことで安定性評価も行っていく。
購入した半導体レーザーが当初予定額より若干の誤差が生じたため。
28年度において、光学部品などに使用する予定
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Applied Physics Express
巻: Vol.8, No.6 ページ: 065501-1-4
http://dx.doi.org/10.7567/APEX.8.065501