研究課題/領域番号 |
26286044
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
澤野 憲太郎 東京都市大学, 工学部, 教授 (90409376)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 結晶工学 / 歪み制御 / 歪みゲルマニウム / 一軸歪み |
研究実績の概要 |
一軸歪みGe層形成に向けて、いくつかの手法を並行して進めた。まず、高Ge組成SiGeバッファー層作製について、これまでに、低温成長と高温成長を組み合わせた2段階成長法を試みたが、Geバッファー層形成に比べて欠陥低減が難しいことが分かったため、まずは、一般的な傾斜組成法により高Ge組成SiGeバッファー層を作製した。このSiGeバッファー層を利用し、選択イオン注入、Geの成長と進め、イオン注入の有り無しによって緩和の違いが生じること、つまりイオン注入による局所的欠陥注入が効果を持つことが示された。 それと並行して、Ge基板を利用し、選択イオン注入、一軸歪み緩和SiGe層形成、その上へ歪みGe層を成長した構造についても評価を進めた。まずラマン分光マッピング測定によって、面内歪み分布を評価した結果、トップGe層の結晶の歪み分布に対応して、明瞭なコントラストが確認でき、Ge膜の結晶歪みが面内で顕著に変化していることが示された。すなわち、選択的イオン注入によって表面歪みGe膜面内での歪み状態の任意制御が可能となったと言える。 さらに、Ge基板とSiGeバッファー層界面の転位構造を平面TEMにより観察した結果、イオン注入のない領域において、転位が一方向([-110]方向)のみに伸びていることが確認できた。結晶の歪みは転位と垂直方向に緩和するので、SiGe結晶が[110]方向にのみ緩和していることを示しており、一軸性歪みを有していることを意味する。実際にX線回折の詳細な評価によって、歪み緩和率が2方向で40%異なることが分かった。 さらに表面形状をAFMによって測定した結果、転位構造と同様に、表面ステップが一方向にのみ発生していることが分かり、一軸性歪みの形成メカニズムを明確化する結果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、SiGeバッファーを利用する方法は、予想外に困難であることが分かった。これは、2段階成長法による低欠陥SiGeバッファー層そのものの形成が難しいことと、選択イオン注入法による手法が、より低欠陥基板を要求することの2点が要因であると考えられる。しかしながら、一般的手法である傾斜組成法を用いて厚膜SiGeバッファーを用いることで、イオン注入効果は確認できたため、今後一軸歪みGe形成も十分可能であると言える。 一方、Ge基板を利用した構造においては大きな進展があり、端的には、一軸歪みGeの形成が達成された。これは、液浸ラマン分光法という特殊な方法を用いて実証されつつある。またラマンマッピング測定においても、トップGe層の高品質化、厚膜化によって、はっきりした分布の観測に成功している。まずは第一の目標が達成されたと言ってよい。 最終的な目標は歪みGe-on-Insulator(GOI)であるが、これまで並行して、Si基板上のGeバッファー層形成についても開発を進めており、その結晶性高品質化を達成し、さらに貼り合わせ法によるGOI(Ge-on-Insulator)化に成功している。電気伝導特性も含め詳細な評価を進めている。今後Ge基板に替えて、GOIを利用することで、一軸歪みGOI形成は容易に達成可能と考えられる。 以上、一軸歪みGeが形成されていることの確認まで進んでいると共に、GOIの形成まで進んでいるので、全体の計画と照らし、十分に順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
一軸歪みGe膜の形成を確認できたので、この歪み状態の、パターン幅依存性を種々の線幅試料を用意することで調べる。線幅を数μm程度にしていくことで、イオン注入領域と非注入領域のラマンシフトの差が小さくなっていくことが確認し、線幅を小さくすることで、両領域の相互作用が大きくなり、両歪み状態が互いに影響してくることを示す。これは歪みの一軸性が強くなることと対応する。これにより、構造の最適化ができる。 また、一軸歪みGOIを作製し、作製後に、XRD、ラマンによって詳細に歪み評価を行う。一軸歪みGOI作製としては、GOI基板完成後に選択的イオン注入プロセスを進める方法と、一軸歪みGe膜形成ごに貼り合わせを行う方法の2種類と試す。より薄膜化のためには後者が適している、その場合、プロセス前の歪みが維持されていることを確認する必要がある。歪み緩和が生じていた場合は、各プロセスの改善を行う。特に貼り合わせ界面の検討、熱処理の影響を調べる。 最終的に確立されたプロセスにより、一軸歪みGOI-MOSFETデバイスの試作を行う。まずはゲート絶縁膜として、ALDによるAl2O3膜とGeO2積層構造の形成を進め、良質な絶縁膜特性を確認後、MOSデバイスプロセスに入る。基板構造として、SiGeバッファー、Geバッファーを利用した構造の両者を進め、高移動度化へ向けた最適構造を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料評価を、研究室内でできることから優先した結果、予定よりも試料の業者分析委託が少なかったことが要因。
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次年度使用額の使用計画 |
TEM観察(2,3試料)、SIMS分析等、研究の最終年度であるので、業者分析委託を計画している。
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