研究課題/領域番号 |
26286046
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
財部 健一 岡山理科大学, 理学部, 教授 (50122388)
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研究分担者 |
森 嘉久 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00258211)
松石 清人 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (10202318)
中山 敦子 新潟大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (50399383)
福井 一俊 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80156752)
高橋 博樹 日本大学, 文理学部, 教授 (80188044)
山崎 大輔 岡山大学, 地球物質科学研究センター, 准教授 (90346693)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 新超硬質物質合成 / 窒化炭素 / 大気圧窒素プラズマ / 高温高圧 |
研究実績の概要 |
本科研費研究では優れた物性が期待される3次元的窒化炭素結晶(例えばダイヤモンドを超える超硬質性が理論予測されている)の高温高圧合成を目的としている。吾々の合成戦略は、ナノアモルファス窒化炭素をまず合成し、それを高圧高温処理することで目的を達成しようとしている。ナノアモルファスは安定状態ではないので反応性が高いと考えられる。この方法論によりスーパーワイドギャップも期待できる3次元的新窒化炭素半導体C2N2CH2の微小結晶の高温高圧合成に世界で初めて成功し報告してきた。ダイヤモンドの体積弾性率は443GPaであり、この新窒化炭素半導体C2N2CH2の物質の体積弾性率は258GPaでダイヤモンドの60%程度である。C, B, Nの軽元素で出来る超硬質物質をみてみると、ダイヤモンドの次に大きな体積弾性率を有する物質は窒化ホウ素BN(体積弾性率370GPa)であり、その次にヘテロダイヤモンドとよばれるc-BC2N(体積弾性率282GPa)があり、新窒化半導体C2N2CH2の258GPaはその次のグループに属する値である。 新たな研究実績としてRe金属とナノアモルファス窒化炭素が反応し、ReyX(y=2 or 3, X=C, N)物質が合成することを見つけた。Re2Xの体積弾性率は約385GPaでダイヤモンドの87%の体積弾性率に相当した。 また、Re3Xの体積弾性率の調査を進めている。これらは 研究目的の”さらなる新超硬質物質探索”に相当すると判断できる。その他の目標、”超硬質窒化炭素”は出発原料のナノアモルファス窒化炭素の純化による達成を、また、”新窒化炭素C2N2CH2半導体のサブミリメートルサイズの結晶成長”は合成装置の改善を施しての達成を、それぞれ目指して進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本科研費研究の申請時の目標は、 1)超硬質性新窒化炭素の結晶構造と基礎物性の解明とさらなる新超硬質物質探索 2)新窒化炭素C2N2CH2半導体のサブミリメートルサイズの結晶成長と新規物性の探索 とし、窒化炭素結晶の創製とその超物性を明らかにして未踏の窒化炭素物質科学を開拓する、であった。 研究実績に述べた本年度の主たる成果は、”さらなる新超硬質物質探索”に相当するものである。この成果は、”高圧実験装置の一部の部品(ガスケット)との反応”の結果得られたもので、申請書作成時には予想していなかったものである。ただ考えてみれば、本研究当初のアイデア、”ナノアモルファス窒化炭素”原料は反応性が高いので新物質合成には優れた働きをする、が有効であることを確認したといえる。このように捉えれば、新物質の創成という点のみを強調することなく、”アイデア”が当を得ている、という点も評価しておきたい。また、”超硬質性新窒化炭素の合成”は改良した出発原料で進め、また、”新窒化炭素C2N2CH2半導体のサブミリメートルサイズの結晶成長”も改良したガスケット構成ですでに合成実験を終えており、現時点では6月のフォトンファクトリでのX線構造解析実験で進展が判断できると考えている。これらの結果が現時点で明らかでないことと、また、プラズマ合成による水素を完全に取り除いた出発原料の“ナノアモルファス窒化炭素”合成が完成していないので、”やや遅れている”と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基本アイデア、”ナノアモルファス窒化炭素”を出発点にして新規な優れた物性を有する3次元窒化炭素の合成という方向性は、昨年度の成果(新超硬質物質の合成・発見)からも誤っていないと判断している(研究推進の方向転換は必要なし)。 個々の課題の進捗を見てみる。種々の物性評価のために”サブミリメートルサイズの試料合成”という課題では、そのための装置改良(レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルのガスケット部に温度均一となるようなセルを入れる)を実施し、この改良装置による合成実験をすでに済ませている。その結果を確認後(6月のフォトンファクトリーでの合成試料の構造解析による)、問題点があればさらに改良する、というPDCAサイクルに入れていく。 ”超硬質性新窒化炭素の合成”の成否は、プラズマ合成の出発原料であるナノアモルファス窒化炭素が水素を含んでいるために高温高圧処理後も水素を含んだC2N2CH2ができたと考えている(ただし新窒化炭素半導体C2N2CH2の合成自体は世界初であった)。出発原料であるナノアモルファス窒化炭素から水素除く(純化)ため、プラズマ合成装置や合成に用いる原料の見直しを進めてきた。現在は、プラズマヘッド等の金属に含まれている水素が原因ではないかと考えて水素含有量の少ない金属でヘッド試作しているところである。 また、“未踏の窒化炭素物質科学を開拓”という点では、筑波大学・松石研究室、福井大学・福井研究室において可視・紫外の光物性研究が進んでいる。また、日大・高橋研究室では超伝導探索が緒についた。岡山大学・山崎准教授とはマルチアンビルによる高圧高温合成で日常的連携が確立した。また、タイ・チュラロンコン大学のPinsook教授のところでは新窒化炭素半導体C2N2CH2の圧力下での電子構造計算が進んでいる。引き続き多面的に共同研究を進めて開拓していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していなかった第7回アジア高圧会議(2015年1月、タイ・バンコク)に招待講演を依頼された。科研費以前の成果であるスーパーワイドバンドギャップが期待される新窒化半導体C2N2CH2と科研費後の成果である超硬質性を有する世界初合成のRe3CまたRe2Cについて合成戦略、物性評価を紹介した。世界から100名程度の高圧物理関連の研究者の参加があり、窒素科学研究展開の世界的ネットワーク形成に努めた。ウプサラ大学のAhuja教授からはナノアモルファス窒化炭素の触媒能、とりわけナノアモルファス窒化炭素のバンドギャップが可視光を吸収できるようにできたらその触媒性能を理論的に計算するのでデータを送るようにとの激励を受けた。また、Seoul国立大学のLee教授からは試料をおくればNMR測定をしてみるとの好意的返事を頂いた。これらは次年度以降に研究に有用であり、次年度使用額は有効であったと判断している。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度はスペイン・マドリッドで世界高圧会議が開催され、当初は出席を予定していたが、「理由」に記したように旅費を前倒しで使用した点を勘案し、申請者の出席は取りやめて大学院院生(博士課程2年生)のみとして研究費が全体として有効に使用できるよにする。
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