研究課題/領域番号 |
26286052
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 理 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70370301)
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研究分担者 |
田畑 博史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00462705)
中山 知信 国立研究開発法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (30354343)
片山 光浩 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70185817)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シリセン / カルコゲナイド / 二硫化モリブデン / 走査トンネル顕微鏡 / ラマン散乱分光 / ナノリボン / ゲルマネン |
研究実績の概要 |
シリセンはシリコン原子の六員環から成るシート材料であり、グラフェンに匹敵する高キャリア移動度を持つと予想されるだけでなく、バンドギャップ自身が電界によって変調できる等、グラフェンにはない物性が理論的に予測されている。本研究では、導電性基板上以外でのシリセン作製プロセスを構築し、未解明である電気伝導特性を明らかにして、シリセンの電子デバイス利用への道を拓くことを目的としている。 本年度は、二硫化モリブデンを基板としたシリセンの成長について検討を行った。その結果、適正な基板温度では、シリコン原子が規則配列して層状成長し、その電子構造は、ディラックコーン型ではなく、通常の金属的な構造であることがわかった。既に国内会議で2度、国際会議にて1度発表を行い、現在論文投稿を進めている。シリコンが金属的な膜を形成する例は極めて珍しく、真空ラマン計測による評価にも着手し、詳細な特性を調べている。 一方、シリセンと同族元素であるゲルマニウムによる層状材料であるゲルマネンの作製、特性評価にも着手した。ゲルマネンはスピン軌道相互作用が大きいため、バンドギャップ操作の実証実験に適した材料である。本年度は、導電性基板上以外にてゲルマネンを作製する試みとして、Si(111)基板上のSb単層膜へのゲルマニウム蒸着の実験を行った。現在のところ、ゲルマニウムの微結晶が得られるに留まっているが、引き続き別の基板上での成長を模索していく。 また、前年度に行っていたAg(110)基板上のシリセンナノリボンの状態密度の空間分布計測について、共同研究者と理論計算を行い、ナノリボン間で波動関数の重なりが生じることで、ディラックコーンが形成されることが確認された。これは、このシリセンナノリボンが確かにディラック電子系由来の構造であることを示す重要な結果であり、国際会議で2度報告を行い、現在論文投稿を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の達成目標は、1)二硫化モリブデン(MoS2)上に形成したシリコン膜の電子構造を解明すること、および、2)作製したシリセンの真空ラマン計測による評価であった。1については、ほぼ達成されたと言える。2については現在進行中であり、次年度以降にさらに計測を進める必要があるが、ゲルマネン作製実験の開始や、Ag(110)上シリセンの特異な電子構造の理論的解明など、当初の目標以上に進んだ部分もあったことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から行っている二硫化モリブデン基板上のシリコン薄膜については、真空中でのラマン散乱計測を行っていく。既に電子構造が従来のシリコン結晶とは明らかに違うことがわかっており、その電気伝導特性評価を多探針走査プローブ顕微鏡を用いて行い、特性を解明する。また、ディラックコーン型のシリセン成長を導電性基板以外の上で行うため、単結晶シリコン基板上にカルコゲナイド薄膜を作製し、これをテンプレートとしたシリセン成長プロセスの構築を行う。特に硫化ガリウム(GaS)やセレン化ガリウム(GaSe)など、シリセンの格子定数に近い材料をテンプレートとして用いる予定である。 一方、前年度から着手したゲルマネンの作製、特性評価に関しては、最近では金をはじめとした金属基板上での作製例が報告されているものの、シリセンに比べて未知の部分が多い。そこで、既報であるアルミニウム基板上にて作製したゲルマネン薄膜に対し、真空ラマン計測によって格子振動モードの計測、さらには同軸型直衝突イオン散乱分光法を用いて原子配列構造の決定を行うことで、ゲルマネンの基礎物性データの構築を図る。 以上の実験データを基に、テンプレート表面が異なることで、その上に成長したシリコンやゲルマニウム薄膜の物性がどのように変化するかについて、理論研究者の力を得ながら検討し、シリセン・ゲルマネンの成長方法を確立する。得られた結果は適宜学会や投稿論文にて発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置利用による出張費が予定より少なく済んだために、次年度使用額とした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は装置利用のための出張が増えると予想されるので、主に旅費として使用する予定である。
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