H28年度は、H27年度に引き続きグラフェンの湾曲に注目し、グラファイト基板に吸着させた単層グラフェンシートの剥離現象のシミュレーションを行い、その結果を系統的にまとめた。グラフェンシートをグラファイト基板の六員環とAB積層で配置する整合性のよい配向から微小角度θinだけ回転させてずらしてからグラファイト基板に吸着させて剥離を行ったところ、グラフェンシートは基板と整合性を示す擬周期的波形を示す水平力を受けながら剥離された。この際、初期配向の微小回転により生じた不整合性を打ち消してAB積層に近付くために、グラフェンシートはその面接触部では局所的にスティックスリップ運動を行いながら、シート全体としては首振り的なたわみ運動を行うことが分かった。このように、剥離過程で形成される3次元的な湾曲グラフェンのナノ力学には、さまざまな運動自由度が局所的(原子スケール)、全体的(分子・ナノスケールで)に連動して発生することが分かった。
さらに、初期配向角度が0 deg.≦θin≦1 deg. の積層の整合性が良い範囲に注目して解析を進めたところ、0 deg.≦θin≦0.1 deg. という非常に狭い範囲では、グラフェンシートとグラフェン基板間の見かけの接触面積が真実接触面積と等しくなり、平均水平力と平均真実接触面積との間には線形性が見られた。次に0 .1deg.≦θin≦1 deg. の領域では見かけの接触面積が真実接触面積とほぼ等しいものの、平均水平力はほぼ一定となった。 一方、初期配向角度がθin≧1 deg. の領域では、配向角度の増加にともなって真実接触面積が見かけの接触面積からから大きくずれていった。平均真実接触面積の減少は平均水平力の減少として反映されることは確認できたが、不整合性の顕在化によりスティック・スリップ運動の複雑化あるいは消失や、モアレパターンの出現などが生じており、これらが平均水平力に影響を与えていると予想される。
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