研究課題/領域番号 |
26286059
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉田 篤史 静岡大学, 工学部, 准教授 (20334956)
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研究分担者 |
間瀬 暢之 静岡大学, 工学部, 教授 (40313936)
川田 善正 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70221900)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ光工学 / 非線形光学 / 表面プラズモン / フェムト秒分光 |
研究実績の概要 |
本研究では金属ナノ粒子表面に発生する局在表面プラズモン増強光電場を微小光源とする超高速全光走査型光スイッチシステムの開発に挑戦する。提案するデバイスは、ガラス基板上に金属ナノ粒子を積層し、さらにその上に非線形光学特性の大きなポリマー薄膜を積層した構成である。表面プラズモン増強光電場により非線形光学ポリマー中に過渡的な屈折率変化を導き、これにより表面プラズモン究明周波数を変化させることが光スイッチ動作の基本原理である。研究の過程で、モデルシステムより高強度な第二高調波光発生現象を観測した。そこで、研究ではこの表面プラズモンを介して発生した第二高調波発生現象を利用した光スイッチシステムの構築についても検討した。 平成26年度は、非線形光学ポリマーを積層することにより、表面プラズモン共鳴時に金属ナノ粒子より放射される第二高調波の変換効率を5倍も増強させることに成功した。平成27年度は、金属ナノ粒子より発生する第二高調波の自己相関波形を計測することにより、モデルシステムの時間応答性を試験した。第二高調波自己相関分光では、金属ナノ粒子に照射する光パルスをいったん二つに分割し、両者の間に適当な遅延時間を与えた後に再合成し、第二高調波を観測する。遅延時間を変えながら、第二高調波光強度を観測することにより、光パルスのパルス幅を反映した波形が得られる。金属ナノ粒子より放射される第二高調波を観測する場合、表面プラズモンの電子緩和効果も重畳された自己相関波形が観測されるため、表面プラズモンのフェムト秒動力学の解明にもつながる。研究の結果、パルス幅20fsの光パルスに対し、応答時間30fsの自己相関波形が観測された。この結果は、10fsを切る局在表面プラズモン増強光電場の位相緩和現象を実時間的に観測できたことを示し、これにより30fsを切る高速な応答時間で光スイッチ動作が実現されたことを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、当初計画した非線形光学ポリマー中での過渡的な屈折率変化を利用したシステムについては十分なS/N比での光スイッチ動作が実現されていない。その代わりに、第二高調波の自己相関波形を利用したシステムでは、30fsという高速な応答時間での光スイッチ動作を確認している。励起光の偏光に対する第二高調波の変換効率および発生した第二高調波光の偏波特性を解析したところ、金ナノ粒子近傍のナノ空間において表面プラズモン増強光電場による近接場効果が関与していることが確認され、確実に超高速な非線形光学現象が回折限界を切るナノ微小空間で生じたことを実証した。スイッチ動作原理に変更はあったものの、計画段階で掲げた超高速全光走査型光スイッチシステムの性能目標はほぼ達成されており、研究は順調に進んでいるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までの研究では100nmオーダーの素子サイズの金属ナノ構造体において30fsを切る時間応答性で第二高調波発生量を切り変え、ナノ微小空間で光スイッチ動作させることに成功した。研究最終年度である平成28年度は、モデルシステムの性能の最適化に取り組む予定である。 スイッチング動作試験と並行して励起光波長である800nm帯に完全共鳴する非線形光学ポリマーの開発も行ってきた。これまでの研究ではベンチマークとなるポリマーを選択してスイッチング動作の試験を実施してきたが、平成28年度は開発した新規な非線形光学ポリマー材料を利用することにより更なる第二高調波発生効率の増強を狙う。 従来の非線形光学では物質の吸収波長と励起光の波長が一致すると、物質の非線形性が増大化する一方、時間応答性が遅くなることが知られている。この共鳴励起効果は光スイッチシステムの性能を決定する大きな要因となりうる。そこで、これまでに開発された一連の非線形光学ポリマー材料について系統的に非線形光学応答性を調査することにより、表面プラズモンを介した非線形光学現象における近共鳴効果の及ぼす役割について解明する。 これまでの研究では、直方体ロッド形状の金ナノロッドを利用してきた。このようなロッド形状の金属ナノ粒子を用いた場合、ロッド平面に対して有限の角度で光を照射したときのみ第二高調波を発生しうる。しかし、実用的には顕微光学系でも動作可能な垂直励起条件で動作することも求められる。この課題を解決するために、垂直入射した光波に対しても、二次非線形光学活性を示すことの期待される三角錐状の金ナノ粒子や異なるサイズからなる金ナノロッド二量体を導入したシステムについて検討する。 最後に得られたナノ光スイッチシステムの高密度・高速光情報処理システムへ移転する上での課題について検討し、研究の総括とする。
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