研究課題/領域番号 |
26286060
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
ベイ ジョンソク 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20165525)
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研究分担者 |
莅戸 立夫 富山大学, その他の研究科, 准教授 (00261149)
有吉 誠一郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20391849)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光エレクトロニクス / テラヘルツ波発生 / ドップラー効果 |
研究実績の概要 |
研究初年度である本年度は、周波数変換実験のための準備期間とし、テラヘルツ時間領域分光計測システムの改修と評価、GaAs変換回路およびその入出力ポートとなる導波管回路の設計・製作・評価、伝送損失低減のためのサンドイッチ構造を持つテラヘルツ伝送線路特性の理論解析、入力源となる高出力電力合成型ガンダイオード発振器出力部モード変換器の製作・評価を、当初計画に従って進めた。 先ず、Ti:サファイヤレーザーの改良(連続動作型励起グリーンレーザー、Ti:サファイヤ結晶、及び光学反射鏡の交換)により、従来の約2倍のファムト秒パルス出力増強に成功した。次に、ミリ波励起源となる高出力電力合成型ガンダイオード発振器の出力モード変換回路(TE30-TE10モード変換)の開発を行った結果、周波数55GHzにおいて、ほぼ100%に近い高い変換を得た。しかし、周波数帯域が狭いという問題点も明らかになった。最後に、透過型周波数変換動作用の導波管回路および幅30μmのスロット線路を持つGaAs周波数変換器を設計・製作し、そのテラヘルツ帯における基本特性を実験的に明らかにした。 上記の結果より、当初予想通り変換器における放射損失によるテラヘルツ波の減衰が、約5dB/mmと大きいことが分かった。この対策法として、先ず、石英基板をGaAs基板に貼り付けたサンドイッチ型周波数変換器について、理論的に解析を進め、100μm厚の石英基板上に20μm以下の厚さのGaAs基板を貼り合わせた線路が、周波数1THzにおいて減衰を2dB/mm以下に低減できるとの知見を得た。次に、発想を転換し、従来損失と考えてきた変換器の線路からの放射そのものを出力として取り出す新たな周波数変換回路構成を考案し、理論的にその有用性を確認した。今後、上記2つの方法について実験的に検討を進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画では、①GaAs周波数変換回路の設計、製作、そして評価、②ミリ波入力テラヘルツ出力用の導波管回路の設計、製作、そして評価、③フェムト秒レーザーシステムの更新と波面傾斜装置の実験的確認、④高出力ミリ波発振器の準備と調整、をそれぞれ実施するとした。 ①に対し、GaAsスロット線路について実施し、テラヘルツ波伝搬特性を明らかにした。その結果に基づき、線路での放射損失を低減するサンドイッチ構成の線路の詳細解析、さらに発想転換による放射損失部を逆に出力として取り出す新たな周波数変換回路を発案し、その有効性を理論的に示した。但し、当初計画したコプレーナ・スロット線路との比較は、次年度に持ち越した。 ②に対し、透過型導波管回路についてほぼ当初目標を達成した。計画では、反射型導波管回路についても実施予定であったが、最初の周波数変換実験で用いる予定の透過型導波管回路での特性を十分に評価し、その問題点を明らかにした後に製作することが効率的と考え、反射型は次年度課題とした。 ③に対し、当初目標を達成した。④に対しては、変換実験で必要となる発振器の出力を導波管の基本モードに変換するモード変換器を開発し、55GHz帯でその有用性を実証した。 以上の通り、初年度研究計画の基本的な項目は当初目標通りであり、最終的な研究目標に対する達成度は約30%である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度得られた理論および実験結果に基づき、GaAs周波数変換回路およびミリ波入力およびテラヘルツ波出力用の導波管回路の改良を行い、その個々の特性を評価後、60GHz~100GHzのミリ波を300GHz以上のテラヘルツ波への変換実験を実施する。その方法は、以下の通りである。 (1)GaAs周波数変換回路および導波管回路の改良:GaAs周波数変換回路として、従来半絶縁性GaAs基板を用いて来たが、これをテラヘルツ時間領域分光法で良く用いられている低温成長GaAs基板に変更すると共に、入出力導波管との整合特性を改善する整合回路を加えた変換回路を製作する。それに合わせて、入出力導波回路も再製作する。 (2)周波数変換実験の実施:測定すべき特性は、光励起プラズマ移動速度(レーザーの入射波面角度)に対する入力ミリ波に対する周波数増倍率および電力変換効率である。その測定結果より、電力変換効率を制限する要因を明確にする。特に重要となる要素であるテラヘル波の放射損失について詳細に調べ、この放射損失を逆に出力として利用する新たな変換回路方式について合わせて検討する予定である。 (3)周波数変換理論の立証とその精密化:上記の実験結果との照合を通して、ドップラー型周波数変換法に関する理論の正当性を検証する。また、測定結果から、光励起されたキャリアの移動度の時間変化に関する知見を得、この効果を組み込むことで理論の精密化を図る。 以上の実験と理論解析に基づき、周波数変換回路での伝搬損失を低減するサンドイッチ型線路及び放射テラヘルツ波を出力として用いるそれぞれの方式について比較検討し、効率的な周波数変換回路について知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
周波数変換回路の基本特性測定の実験および理論解析結果より、GaAs線路からの放射損失を逆に出力として利用するより効率的な回路方式を考案した。その理論解析の結果からは、最初の回路構成に比較し、より効率的な周波数変換が可能との結論を得た。そこで、この新しい回路方式を実験的に検討すべく、その回路製作費分を次年度へと繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
高周波線路からの放射を出力とする新たなGaAs周波数変換回路とその入出力導波管回路は、構造が特殊なためその製作費は200万円以上となることが予想される。繰越金は、その製作費とする予定である。
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