研究課題/領域番号 |
26286061
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣理 英基 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00512469)
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研究分担者 |
望月 敏光 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (30549572)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体 / 光物性 / テラヘルツ分光 / 高強度テラヘルツ光源 / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
近年の急速な情報通信技術の高速化と大容量化の要請から、半導体電子デバイスにおける素子の最小加工寸法は10nm以下にせまる微細化が進み、デバイスの駆動電場の高電場・高周波化が進んでいる。このため固体メモリーにおける電荷蓄積やトランジスタにおける電流制御が従来の半導体材料では十分に行えない「微細化の限界」が問題となっている。本研究では、このような物理的な限界を突破し新たな固体メモリーやスイッチング電子デバイスを実現するために、テラヘルツ周波数帯の高電場下における半導体の新規光学現象を探索することを目的としている。今回、不純物量の少ない高品質なGaAs試料を実験対象として、テラヘルツ電磁波照射下におけるバンドギャップ近傍の光吸収変化を測定した。バンドギャップ近傍の光学応答を支配する励起子準位は、テラヘルツ帯に内部準位エネルギーがあり、かつそのダイポールモーメントは原子系に比べて大きく、劇的なテラヘルツ非線形応答が期待できる。このような非線形応答は、電子の実励起を伴わないために高速・低いエネルギー損失で動作する電気光学素子への応用が期待できる。周期的な高強度テラヘルツ電磁波を照射することにより、テラヘルツ周波数の整数倍の周波数で光吸収が変化する実験結果をえた。本成果は、励起子状態のテラヘルツ光着衣状態を反映したものであり、応用的側面だけでなく、今後超高速光応答を調べる上で非常に重要な知見となり得ると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分担研究者とともに、テラヘルツ照射下での光学応答を観測するための最適なGaAs量子井戸試料を準備した。バンドギャップ近傍の光学応答は、励起子(電子―正孔対)準位によって支配されている。励起子準位の光学応答を、100fs程度の高い時間分解能で、かつ高い信号/雑音比で観測するためには、プローブ光としてテラヘルツ光発生用のレーザー光パルスの基本波(800nm)を利用すればよい。このため、基本波と同じエネルギー位置に、励起子吸収が現れるようにGaAs量子井戸試料の設計・作製を行った。光学応答を観測するために、試料作製上必要なGaAs基板をケミカルエッチングで除去することにより、テラヘルツ照射下での微弱な超高速吸収変化を検出することができるようになった。この結果、世界で初めて固体材料において、テラヘルツ電場励起によりテラヘルツ光着衣状態が形成され、サブサイクルで振動する光学応答が実現可能であることを立証した。また、本研究費の助成を受けて遂行された研究論文がApplied Physics Letters, 107, 221106(2105)、New journal of physics, 18, 013045(2016)に出版された。
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今後の研究の推進方策 |
今回測定で観測されるテラヘルツ光着衣状態のエネルギー準位は、観測に利用するプローブパルスのスペクトル幅によって制限される。レーザーパルスの基本波を広帯域な白色光源へと変換し、より高次のテラヘルツ光着衣状態の観測を試みる。また、GaAs試料だけでなく、エレクトロニクスデバイスの基礎となっているシリコン試料に対しても実験を行う。また、テラヘルツ光と試料の相互作用を増大させるために、金属構造により試料内部での電場増強を行う。
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