研究課題/領域番号 |
26286063
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 克昌 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80362664)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラマン散乱 / 光学顕微鏡 / 超解像顕微鏡 / 構造化照明 |
研究実績の概要 |
ラマン散乱顕微鏡は分子や結晶格子の振動を捉えて、その分布を画像化する顕微鏡であり、生体分子から半導体まで各種材料やデバイスの分析に利用されている。本研究の目標は、従来のラマン散乱顕微鏡の空間分解能を向上させ、生体組織、細胞、ポリマー、カーボン材料等の様々な試料に対するラマン散乱イメージングの利便性と有用性をさらに向上させることである。またラマン散乱顕微鏡の超解像イメージングはこれまで実現しておらず、顕微鏡光学、計測光学、分光学等の学術的な側面からも、本研究の成果は有意義な知見を与える。この目標を達成するために、本研究では、構造化照明を行うことによりラマン散乱顕微鏡の空間分解能を向上させることを試みている。 平成26年度は、構造化照明ラマン散乱顕微鏡の設計、試作を目的として研究を行った。従来から開発してきたスリット走査型ラマン散乱顕微鏡に構造化照明を行うための光学系を組み込み、さらに光の照射条件を制御するソフトウェアを開発し、制御システムに追加した。試作した顕微鏡を用いて、ポリマー材料、カーボン材料を観察することで、設計通りに顕微鏡システムが動作することを確認し、さらに構造化照明の効果によりラマン散乱像の空間分解能が向上すること、またその空間分解能の向上は検出した全波長域(560-630nm)で達成されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の目標は構造化照明ラマン散乱顕微鏡の設計、および試作を主な目標にしており、順調に研究を進めることができた。実際に、装置設計、および試作を完了し、ポリマー材料、カーボン材料の観察で空間分解能の向上を確認した。その空間分解能は、まだ理論限界にまでは達してはいないが、試作した顕微鏡の動作確認という当初の目的は十分に達成している。以下具体的な内容を示す。 本年度は、従来のスリット走査型ラマン散乱顕微鏡をベースとし、それに構造化照明を組み込むという方針で新しい顕微鏡の設計・試作を進めた。波長532nmの連続発振レーザーを光源とし、そこからのレーザー光を回折格子により分割し、それらを顕微鏡試料上で干渉させ、試料上に構造化照明を形成した。この設計では回折格子を変更することにより構造化照明のピッチを変更することが可能になる。また、試料ステージ部は試料冷却機能を組み込める設計とした。上記に加え、構造化照明下で取得したスペクトルデータを再構築し、高解像度のラマン散乱像を得るためのソフトウェアの開発も行った。具体的には、スペクトルの空間歪みの除去、ノイズ除去、および周波数空間での画像合成という、高空間分解能なラマン散乱像の構築に必要な機能を組み込んだ。 試作した顕微鏡システムの動作確認を目的とし、試作した装置を用いてポリスチレン微小球粒子、カーボン材料を試料として測定を行った。光学系、およびソフトウェアのパラメーターの微調整を経て、ラマン散乱信号の測定、および画像構築処理が想定通り行われていること、および構造化照明により空間分解能を向上できることが確認された。試作した顕微鏡では、検出波長域を560-630nm(550-3000cm-1)と設定したが、その全領域で空間分解能が向上していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
顕微鏡装置の開発については、以下の2項目について、主に開発を行っていく。加えて、装置、およびソフトウェアのユーザービリティを向上させ、生体材料(特に生体膜)、ナノカーボン材料(グラフェン、カーボンナノチューブ、グラファイト)の測定に応用する。 1.空間分解能の評価とその限界の把握 前年度までに試作した構造化照明ラマン散乱顕微鏡の空間分解能を実験的に把握する。構造化照明における空間分解能は照明光の縞間隔に依存するが、その限界は検出光学系の結像特性が決定する。ベースとして採用したスリット走査型のラマン散乱顕微鏡は分光光学系を含んでおあり、この部分の結像特性が大きく影響するため、その特性の把握と、最適化を試みる。具体的には微小粒子の測定による結像光学系の空間分解能の把握、また回折格子のピッチの変更による照明光学系の最適化が主な内容となる。 2.冷却ステージの設置 前年度までに試作した顕微鏡装置に冷却ステージの組み込みを行う。前年度には冷却ステージの設置を前提とした設計を行い、既存の冷却ステージの組み込みも行ったが、利用可能な対物レンズが制限され、ラマン散乱光の検出効率が低下するという問題点があった。これを克服するため新たな冷却ステージを設計、試作することにより、微弱なラマン光でも十分な計測が行える装置として開発する。超解像観察には長い測定時間が必要であることが前年度の研究により判明したため、生体試料の長時間の固定のため冷却ステージが必要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料、特に生体試料、の微細構造の固定、および長時間の安定した観察の目的のため、冷却ステージを設計し、特注機器として導入する予定であったが、初年度は既存の冷却ステージを用いて、まず基本的なラマン計測が行えるかどうかを検証し、想定していない問題点がないか予備実験を行った。その結果、当初の設計では使用可能な対物レンズの仕様に制限があり、ラマン散乱の検出感度を低下させるということが分かった。このため、仕様の決定のための予備実験、および設計を引き続き行い、次年度に装置の試作および設置を行うこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に引き続き冷却ステージを用いたラマン散乱光の計測の予備実験を行い、その結果を元にステージの設計を8月までに確定させる。その後、特注仕様での発注を業者に行い、10月頃より顕微鏡システムへの設置、および評価を進める。本冷却ステージは、最終年度における細胞試料の高解像度観察に使用する装置であるため、この予定でも当初の計画から遅延無く研究を遂行できる。
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