研究課題/領域番号 |
26286075
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 渉 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (90333319)
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研究分担者 |
大久保 嘉高 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (70201374)
上野 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, その他, 研究員 (50281118)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化亜鉛 / 摂動角相関 / メスバウアー分光 / 不純物 / 希薄磁性 / ナノ構造体 |
研究実績の概要 |
これまでの研究において、非放射性のInを濃度0.5%で不純物としてZnO中にドープし、これに放射性プローブ核(In-111)を導入して摂動角相関測定した結果、不純物のInはZnと局所的な会合により、熱的に安定なスピネル型のナノ構造体ZnIn2O4を形成することが明らかとなり、論文で報告した。平成29年度は、このナノ構造体の安定性と形成機構に着目して、さらに低い濃度(0.05%)で導入した場合の熱応答を調べた。試料を真空中で加熱処理した場合、比較的低い温度(400 ~ 700 K)では、この構造体成分は試料中で増加するが、さらに高温(1000 K)では、成分が減少に転じる。低温では不純物In原子が熱拡散の過程で会合して構造体を形成するが、高温では酸素空孔が形成し、電荷に不均衡が生じた結果、構造体が分解し、放出されたInが熱拡散によってZn格子点を占有したと解釈できる。この解釈の妥当性を検証するため、同試料を空気中1000 Kで熱処理したところ、今度はナノ構造体の成分が増加する現象が観測された。この観測結果は、上記の真空中での不純物Inの熱挙動に関する解釈を支持するものであり、熱処理の雰囲気によってInは全く異なる挙動を示すという点において大変興味深い。本成果の一部は、現在論文として投稿中である。 酸化亜鉛の希薄磁性発現に関する研究も、研究計画に則って同時に進めた。ZnOに CoとMnを共ドープ(両方とも6.25%)で固溶させ、この試料に放射性プローブであるCo-57を添加して発光メスバウアー分光測定を行ったところ、低温でスペクトルに磁気分裂が観測された。希薄磁性の発現を期待させる結果である。また、同じ試料について磁化測定を行った結果、僅かながら磁気ヒステリシスが観測された。現在、共ドープ試料との比較のため、CoとMnの単ドープ試料を合成し、メスバウアー分光測定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題申請時に計画した13族元素をドープしたZnOの局所構造の解明のうち、InとAlについてほぼ計画通りに摂動角相関法によって局所場を測定した。不純物の固溶限界濃度の決定とその限界を超えた場合に形成される二次相の微視的構造を明らかにし、さらにはその局所構造の熱分解過程ならびに酸素存在下での加熱による不純物の会合過程を議論することができた。電気伝導性については、4探針法によってIn不純物の濃度依存性を調べた。Inの導入によって、ほとんどのInが固溶してZn位置を置換する場合は、Inがドナーとして作用することによる伝導度の向上が確認されたが、局所的にナノ構造体が形成する0.5%のInドープ試料においては、逆に伝導度が低下した。伝導電子がこの構造体によって散乱されるため、電気伝導が阻害されたためと考えられる。このバルクの伝導度の結果は、摂動角相関法におけるプローブの軌道電子捕獲壊変時の後遺効果の現象にも現れており、巨視的な観測と微視的な観測の双方の結果が一致した。これは、本研究の企画立案の段階で期待した成果である。 また、不純物が創出するZnOの希薄磁性の探索についても、高濃度でCoとMnを固溶させる手法を確立し、発光メスバウアー分光法によって超微細磁場の測定ができた点において、両研究共にほぼ順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ZnO中にドープされた13族元素の不純物が形成するナノ構造体の構造を解明することに成功した。また、このナノ構造体を構成するIn原子の熱活性による離合集散過程を追跡した結果、雰囲気中の酸素の有無によって不純物挙動が大きく異なることを明らかにした。ZnO中で不純物イオンが熱拡散する現象を捉えた結果と言えるが、この熱拡散過程をさらに詳しく調べることは、n型ZnOの応用のみならず、基礎物理的な観点からも大変重要である。熱拡散過程は原子が空格子点をホッピングする現象であり、摂動角相関の観測結果は、InがZn位置を置換し、その後もさらにこの動的な運動を行っていることを示唆している。今後はこの現象を、In-117をプローブとする摂動角相関法で観測し、ホッピング頻度に関する情報を得ることを目的として研究を遂行する。ホッピングの時間スケールとIn-117の観測時間窓(中間状態の半減期(53.6 ns))が同等ならば、この現象が観測できるものと期待している。 ZnOの希薄磁性の探索においては、プローブ位置での超微細場の不純物(Co, Mn)濃度依存性ならびに温度依存性を精査する。現在合成している試料の濃度は希薄磁性が発現するという理論予測に基づいたものであるが、磁化測定によるバルクの実験結果の報告例によれば、さらに希薄な濃度でも磁性が発現することが示されている。今後は、希薄磁性のCoとMnの濃度依存性を引き続き発光メスバウアー分光法で調べ、バルクで観測されている現象と微視的な観測結果を比較する。また、Co位置での情報に加え、Mn位置での情報も希薄磁性の現象を理解する上で大変重要となるため、今後はMn-57ビームを用いたインビームメスバウアー分光法を採用し、Mn位置の超微細場を測定する。 以上の研究で得られた成果をまとめ、学会ならびに論文で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
短寿命放射性同位体の製造と、それを用いた実験実施のための研究機関である京都大学原子炉実験所は、東日本大震災の影響で研究炉の稼働を休止していたが、平成29年度より再稼動が見込まれていた(平成28年度までは稼動しないとの通知を受けていた)。しかし、その後さらに再稼動が遅れ、研究炉で実験を再開できたのは、平成29年11月であった。最終年度として計画した当初の研究が大幅に遅れたため、次年度に繰り越して使用することにした。 平成30年度は、年度の始めより原子炉が通常運転する見込みであるとの連絡を受けているので、昨年度に遂行が叶わなかった短寿命核種を用いた摂動角相関測定を行い、予算を執行する。
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