研究課題/領域番号 |
26286076
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大槻 勤 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (50233193)
|
研究分担者 |
関本 俊 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (10420407)
沖 雄一 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (40204094)
高宮 幸一 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (70324712)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 放射性物質 / エアロゾル / 福島原発事故 / 環境汚染 / 環境放射能 / セシウムボール |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所から放出された放射性エアロゾルは複雑系の中での環境への移行であると考えられるが、ここでは実験室中での単純な放射性エアロゾルの生成機構から環境中のエアロゾル生成モデルの基礎データを取得することを目的とする。 原子や分子の集合体であるエアロゾルと呼ばれる個体や水溶性クラスター,水中でのコロイド微粒子,集合プルーム(煙流,流雲)は,その原子や分子の性質や生成環境によって大きく異なる。これらの基礎的な生成過程は古くから議論されてきた。しかし、エアロゾル生成のメカニズムやその物質特有の粒径分布など、知られていない点が多い。本研究では原子炉や加速器を有効かつ効率的に用い,手法や金属を変えて比較的単純なエアロゾルを合成しながら,放射性同位体をプローブとしてエアロゾルの成長過程のメカニズムを解き明かす実験を行なってきた。具体的には実験室系において溶液からエアロゾルを発生させる装置を開発し、核分裂片を用いた吸着実験を行ない、その溶液エアロゾルに含まれる溶質の種類や濃度が放射性エアロゾルの生成過程に与える影響をより定量的に検討することを試みた。その生成機構を解明することによって、福島原発事故で放出された放射性エアロゾルの性状を推測することができるのではないかと考えた。 さらに、高い放射能を、放射性セシウムを含んだセシウムボールの発見により、どのような環境でこのような物質が生成されたのか疑問がもたれている。これらの生成にも実際のセシウムボールの探索とその化学的性質や構造を調べることにより、実際のセシウムボール生成のメカニズムも調べてきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
京都大学には研究用原子炉KURが設置されていて、実験はこの原子炉を用いてCs-134などの放射性同位元素を製造し、放射性エアロゾル生成メカニズムを調べる実験に用いることを検討してきた。しかし、福島第一原発事故後に原子炉や核燃料等に新しい規制基準が導入され、この3年間研究用原子炉の停止を免れることができなかった。本年7月より研究用原子炉も稼働予定であるので、多少遅れてはいるが、原子炉を用いた実験も可能となる予定である。 本年度までに放射性エアロゾルの生成過程を模擬するために、溶液を基質とする放射性エアロゾルを生成する装置を開発し、その生成メカニズムを実験的に解明する試みを行ってきた。その結果、微小な溶液滴である一次粒子の化学種および一次粒子に付着する放射性物質の化学種の違いによって、放射性エアロゾルの生成効率に差異が生じることが分かり、溶液を基質とする放射性エアロゾルの生成過程における化学的な効果が明らかになってきた。具体的には、エアロゾルと核分裂生成物(FP)の付着過程において、エアロゾル粒子の表面積に対して正の相関があり、また、表面積の大きな領域では飽和することが確認できた。これより放射性エアロゾルの生成過程において溶液エアロゾルはFPの吸脱着を経る平衡過程モデルを考案し、検証を行ってきた。また溶質の違いによる化学的な影響としてNaCl, NaBr, NaIの付着率、平衡定数を比較するとNaCl < NaBr < NaIの傾向が見られ、これはエアロゾル粒子中の陰イオンの分布の違いが影響していると考えられる。 また、福島の試料から放射性セシウムを含んだボールの発見により、どのような環境でこのような物質が生成されたのか調べるために実際のセシウムボールの探索を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
さらに溶質の違いによる影響に関して、現在は陰イオン種を変えての実験しか行っていないため、今後は陽イオン種の違いによる影響など、より多くの溶質に対する付着実験を検討している。また濃度依存性に関して、なぜ上記のような傾向が見られたのか、その原因を究明する。そのためにもさらに幅広い濃度での実験を行うつもりである。 研究用原子炉KURが7月より稼働することにより、Cs-133(n,γ)Cs-134を製造でき、実際にCs-134を含んだエアロゾルを生成可能となる。あるいは安定同位体を含んだエアロゾルを生成し乾燥させた試料を、放射化分析を用いた分析も可能となるので、これらのことを検討する。 高い放射能を、放射性セシウムを含んだセシウムボールの探索を行い、どのような環境でこのような物質が生成されたのかを調べる。また、その化学的性質や構造を理解するために、実際のセシウムボール生成のメカニズムを実験室系で調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規制基準対応のために研究用原子炉KURの運転が止まっていたため、実験が不可能であった。よって、原子炉での照射のための物品費調達年度を後に回した。新規性基準対応が終わり本年7月より稼働予定であるので物品調達を行う。また、福島の原子力発電所周辺の環境試料を採取し、セシウムボール等の分析中であるが、サンプル数が多いため処理に苦慮している。
|
次年度使用額の使用計画 |
新規制基準対応のために研究用原子炉KURの運転が止まっていたため、実験が不可能であったが、本年7月よりKURが再稼働する。放射化分析等を行えるように、新たにGe検出器の遮蔽架台等を整備し、原子炉照射試料の効率的測定を行い、実験を加速させる。また今後、福島環境のセシウムボール等の分析を質量分析等により、サンプル処理を加速させる予定である。まとめて国際会議等に発表予定である。
|