自由電子レーザー(Free Electron Laser: FEL)の出現により、従来のレーザーでは届かなかった極端紫外光(Extreme Ultraviolet: EUV)領域よりも短波長域における非線形光学過程の研究を行うことが可能になってきた。量子光学効果の一種である超蛍光は、励起状態にある原子が協調して集団で自発放射を起こす過程であり、励起状態の寿命よりも短い時間幅を有するパルス光が放出される現象である。本研究では、世界初となるEUVから軟X線領域での超蛍光の観測を目指し、超蛍光観測用斜入射分光器の新規開発を行った。SPring-8サイトに建設された短波長FEL施設、SACLAのビームタイムを平成28年11月に約1週間獲得できたため、新規開発した斜入射分光器をEUV領域のFELが利用可能なBL1に持ち込んで、EUV-FEL励起によるEUV及び軟X線超蛍光の観測を目指した実験研究を行った。 試料ガスのヘリウムは、パルスバルブを介して光軸方向の長さ2mmのガスセルに導入される。FELの中心波長は、ヘリウムの1s→3p共鳴に相当する53.7nm、及び1s→4p共鳴に相当する52.2nmが選択された。ストリークカメラをOff-axisに設置することにより、超蛍光に特徴的な時間構造の観測を試みた。 ビームライン下流に放射されるEUV蛍光は、パルス状の時間構造を持ち、圧力に依存した遅延時間を有するという超蛍光の特徴に合致した傾向が見られる。一方、ピーク強度の振る舞いは、超蛍光の特徴とは大きく異なっている。その原因の一つの可能性としては、時間分解能が決定的に不足していることが考えられる。今回の実験ではジッターが大きく、波長選別による補正後でも、時間分解能は0.2ns程度であった。ピーク強度や遅延時間の圧力依存性を精度良く測定するために、時間分解能の大幅な向上が望まれる。
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