研究課題/領域番号 |
26286085
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
常行 真司 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90197749)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 第一原理電子状態計算 / ナノ構造 / 分割統治法 / エネルギースペクトル / オーダーN法 |
研究実績の概要 |
第一原理電子状態計算法における分割統治法の一種であるLS3DF法(L.W. Wang et al., Phys. Rev. B77 (2008) 165113)では,系をフラグメントに分割して電子状態計算を行い,2量体,4量体・・・のエネルギーの足し引きで全系エネルギーをあらわすことで,フラグメント境界の寄与をキャンセルして高精度全エネルギー計算を実現する。電子密度分布も同様の足し引きであらわし,各フラグメントの電子状態計算には全系の電荷密度を使って得られたポアッソン方程式から得られる静電ポテンシャルを付加することで,自己無撞着な全系計算を実現する。ただしこの方法では,全系のエネルギースペクトルは得られない。そこで本研究では,従来のLS3DF法では捨てられていた各フラグメントの一電子エネルギースペクトルと,一電子軌道を使って,全系の一電子ハミルトニアンを再構成し,全系の波動関数とエネルギースペクトルを求める手法,Linear Combination of Fragment Orbital法を提案し,そのプログラムを開発している。 今年度は当初計画どおり,平面波基底を用いる密度汎関数法のプログラムxTAPPをもとに,LS3DF法による全エネルギー計算のプログラムと, LCFO法プログラムのプロトタイプを開発した。これらのプログラムを用いて半導体(単体元素,化合物),絶縁体でのテスト計算を行い,通常の全系計算の結果と比較することにより,正しく全エネルギーおよび全系エネルギースペクトルが計算可能であることを確認した。また両者のエネルギースペクトルの誤差の要因を調べ,十分な精度を得るための手続きを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画どおり,LS3DF法とLCFO法のプログラムのプロトタイプを作成し,本研究の主眼であるLCFO法の妥当性を確認することができた。LCFO法の計算精度が,フラグメント境界の取り扱いなど計算条件にかなり大きく依存することは当初予想されておらず,その問題解決に時間がかかったが,最終的には計算精度を確保するための手続きを年度内に示すことができたため,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行ったテスト計算は,分割統治しない通常の手法で簡単に計算できる程度の小規模系に対するものである。本来の目的であるナノ構造体で,手法の有用性を実証していくことは,重要な方向性である。そのためにはプログラムの並列化など,解決すべき点が残されている。また現時点ではLDA, GGAレベルでのテストしかできていないが,ハートリーフォック交換項を用いるハイブリッド汎関数での実証も必要である。金属への適用可能性を明らかにすることも興味深い方向性であろう。 平成27年度は,これらの手法開発と実証に加え,LCFO法に関する早期の論文執筆と国際会議での発表を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発中のLCFO法の計算精度が,当初の予想をこえてフラグメント境界の取り扱いなど計算条件に大きく依存することがわかり,その問題解決に年度末まで時間がかかった。そのため,当初想定していた論文執筆と国際会議等での成果発表を先送りすることとなり,旅費に大きな残額が生じた。 なおこの計算条件依存性の問題は,年度末時点で解決することができたため,平成26年度の研究目標は,おおむね達成することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年9月にスペインで開催される第一原理電子状態計算の国際会議Psi-k 2015 Conference等で発表するための旅費として使用するほか,一部は研究を加速するためにPCクラスタの増強に当てることを計画している。
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