密度汎関数理論(DFT)に基づく電子状態計算手法は、物質中の原子配置と電子物性を高精度に理論解析・理論予測するための強力な手段である。ところが通常の計算コストは、系の大きさの3乗もしくはそれ以上のべきで増加するため、不純物を含む系や複雑なヘテロ界面を含むナノ構造体への適用には多くの計算資源を要する。そこで大規模系を小さな部分系に分割し、個々の部分系における電子状態計算をほぼ独立に行うことで、計算コストを系の大きさの1乗に収める、いわゆる分割統治法(オーダーN法の一種)が開発されている。分割統治法は凝集エネルギーや原子の安定構造の決定に用いられているが,全系に広がった電子状態やそれがもたらすエネルギースペクトルが記述できないため、利用範囲が限定されている。そこで本研究では、分割された各部分系(フラグメント)の波動関数を基底関数として全系波動関数表現し、部分系のエネルギースペクトルを利用することで、高速に全系の電子エネルギースペクトル計算を実現する手法の開発を行ってきた。とくに平成27年度以降は,基盤となるオーダーN法をLS3DF法からLDC法に切り替え,精度向上に努めてきた。 平成29年度度はこれまでに開発した手法を統合してプログラムの汎用化を進め,アモルファスや半導体超格子など,幅広い系への応用が可能であることを実証した。またソフトウエアの公開を念頭に,プログラムの整備を行った。これにより,分割統治法によるエネルギー計算にごくわずかな計算コストを追加するだけで,全系のエネルギースペクトルを精度よく計算できる,非常に簡便な手法が確立された。
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