行列関数を係数に持つ大規模線形方程式に対する高速解法の開発を目的とし,行列関数として行列多項式,行列指数関数,行列平方根を対象としている.平成28年度の実績は以下の通りである.(1)素粒子物理学等で必要とされる行列p乗根に対するNewton法であるIncremental Newton法に対する高速化に成功した.行列のサイズはN×Nとすると,所要演算量はO(p×N^3)からO(log(p) N^3)程度に削減された.具体的に説明するとp=100,つまり行列100乗根については,約10倍の高速化が達成されることになる.この成果は国内で口頭発表により公表され,さらに国際論文誌に掲載された.(2)行列に対する基本的な量としてパフィアンという概念がある.パフィアンは組み合わせ論や微分方程式のソリトン解の表示に現れるが,一般に計算コストがかかる.この問題に対してあるSkew-Centrosymmetric行列のクラスにおいては高速に計算するアルゴリズムを構築することが可能であり、かつそのアルゴリズムは破綻せずロバストであることを示した.この研究は,国際論文誌に掲載された.今後,特殊行列に関する行列関数への応用が期待される.(3)現時点では出版されていないものの行列関数計算に関する著書(分担執筆)を執筆した.今後,出版される予定である.(4)最終年度であるため,広報活動にも力をいれた.研究成果を国際会議の基調講演等を通して,国内外で本研究課題の成果の公表を行った.研究課題終了後も本研究成果を基盤とし,停滞気味であった研究個所を推進する予定である.
|