研究課題/領域番号 |
26287002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 幸伸 東京大学, 数物連携宇宙研究機構, 准教授 (20503882)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Gopakumar-Vafa不変量 |
研究実績の概要 |
今年度はD.Maulik氏と共同でGopakumar-Vafa (GV) 不変量の数学的定式化を行った。GV不変量とは1998年に物理学者のGopakumarとVafaによって提唱された不変量で、3次元カラビヤウ多様体上の曲線を数えるGromov-Witten (GW)不変量やPandharipande-Thomas (PT)不変量と等価になると期待される不変量である。一方、GV不変量を数学的に正しい形で定義するのは,これまで大きな問題であった。2001年に細野・斎藤・高橋がその数学的定式化を与えたが、彼らの定義がGW不変量と整合しないことは当初から知られていた。より近年になって、2012年にKiem-LiがGV不変量の数学的定式化を消滅サイクル層を用いて与えたが、彼らの定義が正しいことを示唆する根拠は希薄であった。今年度の我々の研究によって、Kiem-Liが定義したGV不変量が予想されるGW不変量との等価性を満たさないことが示された。そこでKiem-Liの定式化を修正して、我々は新たなGV不変量の定義を導入した。更に我々が定義したGV不変量と代数曲面上の標準束上のPT不変量が、曲線の数値類が既約である場合に等価であることを証明した。この結果は我々の定義の妥当性を示す大きな根拠を与えている。以上の結果は論文「Gopakumar-Vafa invariants via vanishing cycles」として書き上げ、プレプリントとしてarXivに公表している。今後、我々が定義したGV不変量の変形不変性の証明、より複雑な状況下でのPT不変量との整合性などを示していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3次元代数多様体上のBogomolov-Gieseker型不等式予想については曲面と曲線の直積の場合に少し進展があったものの、決定的な結果を得るには至らなかった。一方、Gopakumar-Vafa不変量についてMaulik氏と共同で研究を行い、Kiem-Liの定義が正しくないことを示したこと、また新たなGV不変量の定義を導入できたことは思いがけない進展であった。この結果によってGV不変量のより深い理解が得られたことになる。よって、総合的にはおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
3次元代数多様体上のBogomolov-Gieseker型不等式については、曲面と曲線の直積の場合の議論を再考察する。ある種の連接層の2項複体に対する離散的な不変量を構築する必要があるため、その様な不変量の構成を目標にする。数え上げ不変量への応用については、現在Bogomolov-Gieseker型不等式予想が成立することが知られている場合にBridgeland安定性条件の理論を応用する。3次元アーベル多様体に対してはBG型不等式の成立が知られているため、この場合に導来圏の自己同値から誘導されるDonaldson-Thomas不変量の制約について調べていく。この点については現在Georg Oberdieck氏、Dulip Piyaratne氏らと現在議論を進めており、引き続き考察を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究費使用による海外出張や、家庭の事情による出張制限によって計画通り研究費を使用できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
積極的に海外から研究者を招へいする。また2月から3月にかけてMSRIの集中プログラムに参加するため、その際に旅費を多く使用する計画である。
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