研究課題/領域番号 |
26287002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 幸伸 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (20503882)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Donaldson-Thomas不変量 / 安定性条件 |
研究実績の概要 |
今年度は、3次元Calabi-Yau多様体上のGopakumar-Vafa不変量の壁超え不変性について調べた。Gopakumar-Vafa不変量とは物理学者であるGopakumarとVafaが提唱した整数値不変量であり、Gromov-Witten不変量やPandharipande-Thomas不変量などと生成関数を通じて等価になると考えられている不変量である。これまでその数学的定義は厳密ではなかったが、昨年度のMaulik氏との共同研究でその数学的定義を提唱した。今年度の研究はそれを更に推し進めるものである。
種数が1以上のGV不変量の壁超え現象を解析するには、これまでDT不変量等で用いられてきたモチーフ的ホール代数による手法は通用しない。そこで3次元Calabi-Yau多様体上の半安定層のモジュライスタックが、その粗モジュライ空間上解析局所的にある種の収束半径付き超ポテンシャルを持った箙の表現のモジュライスタックで記述できることを示した。この「解析的近傍定理」を用いることで、上述の問題が箙の表現の壁越え問題に帰着され、箙の場合のMeinhardt-Davisonの結果と組み合わせることでGV不変量の壁超え不変性を証明した。系として、3次元フロップによってGV不変量が等価になる事が示せるが、これはGW不変量やPT不変量の性質からも期待される結果であった。以上の結果はプレプリント「Moduli stacks of semistable sheaves and representations of Ext-quivers」 及び 「Gopakumar-Vafa invariants and wall-crossing」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
半安定層のモジュライスタックの解析的近傍定理を示すことでGopakumar-Vafa不変量の壁越え不変性を証明することができた。この解析的近傍定理は上記の不変性の証明よりも更に多くの応用を持つことが見込まれるため、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度示した解析的近傍定理を基にして、3次元カラビヤウ多様体上の安定対象のモジュライ空間の「d-臨界的双有理幾何学」を提唱して、発展させることを考えている。これは実際のモジュライ空間の双有理幾何ではなく、むしろ仮想的な双有理幾何学と解釈すべきものである。このd-臨界的双有理幾何学においては、通常のフリップやフロップの類似であるd-臨界的フリップ、d-臨界的フロップといった概念が定義される。3次元カラビヤウ多様体上の安定対象のモジュライ空間が壁越えによって上述のd-臨界的フリップ、d-臨界的フロップで関連付けられるなら、それらが定義する何らかの三角圏の間に充満充実関手、圏同値が存在すると期待される。これはBondal-Orlov, Kawamataにより提唱されたD/K同値のd-臨界版であると考えられ、更にDonaldson-Thomas不変量の壁越え公式の更なる圏論化であるとも考えられる。本年度は以上のアイデアをより具体化及び精密化し、3次元カラビヤウ多様体上の安定対象のモジュライ空間に関する新しい幾何学を展開する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1月から3月まで2か月間アメリカに出張予定であったが、事情によりキャンセルしたためその分の旅費が余った。次年度は海外からの研究者招聘などに使用する。
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