研究課題/領域番号 |
26287003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市野 篤史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40347480)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 保型表現 / 周期 / テータ対応 |
研究実績の概要 |
Wee Teck Gan(Singapore 国立大学)と共同で、メタプレクティック群の保型離散スペクトルの研究を行った。メタプレクティック群はシンプレクティック群の二重被覆であり、Arthurによる古典群に対する結果・Waldspurgerによる重さ半整数保型形式に対する結果の一般化として、その保型離散スペクトルを決定することは興味深い。テータ対応と、奇数次特殊直交群に対するArthurの結果を使うことで、メタプレクティック群の保形離散表現の近同値類に対し、そのAパラメータを定義することができた。またAパラメータが緩増加という仮定のもとで、対応する近同値類の既約分解を大域イプシロン因子を用いて記述することができた。 Kartik Prasanna(Michigan大学)と共同で、四元数体上の保型形式の周期の研究を行った。まず、Weil表現・Jacquet-Langlands対応・Rallis内積公式や関連する計算を含む準備の論文の執筆を行い、完了させた。この論文は、今後の一連の研究に対して基礎的な役割を果たすものになる。また、Jacquet-Langlands対応に対して新たな進展があった。Tate予想から、Jacquet-Langlands対応は対応する志村多様体の積のサイクルを用いて実現されることが期待されている。サイクルの構成は難しいと思われるが、Hodgeサイクルの構成へのアプローチを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Wee Teck Ganとのメタプレクティック群の保型離散スペクトルの共同研究は、平成27年度に開始したものであるが、緩増加という仮定のもとではあるが大域的な結果を得ることができた。Jian-Shu Liによる安定領域に対するテータ対応の結果をうまく援用したことで、議論が著しく単純になり結果につながったと考えられる。残っている課題は、重複度公式に現れる局所表現を局所志村対応を用いて記述することである。これもMoeglinによる局所Aパケットに対する結果を使い、非アルキメデス体に対しては解決することができた。 Kartik Prasannaとの四元数体上の保型形式の周期の共同研究は、平成20年度に開始したものである。設定を行うだけでも多くの計算を必要とする困難なものであったが、ようやく準備の論文の執筆を完了することができた。Hodgeサイクルに関して進展があったため、もともと行っていた周期関係式の研究は一時中断し、新たな研究に集中した。Kudla-Milsonによる調和形式の制限を詳しく調べ、今まで行っていた四元数体に対するテータ対応の研究を組み合わせることで、所望のHodgeサイクルの構成へのアプローチを得た。 今年度も、研究は着実に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Wee Teck Ganとのメタプレクティック群の保型離散スペクトルに関する共著論文の完成を目指す。緩増加なAパラメータに対しては大域的な結果を得ており、残っているのはアルキメデス体に対して重複度公式に現れる局所表現を局所志村対応を用いて記述することである。残っている障害は、標準加群とは限らないある種の誘導表現の既約性であり、この解決を目指す。さらに大域的な結果に対し、緩増加の仮定を外すことを視野に入れる。 Kartik Prasannaとの共同研究においては、Hodgeサイクルの構成に向けて、議論の詳細を詰める。Weil表現の構成や、群の同種写像から生じる微妙な点など、議論にはまだ多くの不備が残っている。これらを着実に解消していく。またKudla-Milsonの構成は定数係数に対するものだが、これを一般の係数に拡張し適用範囲の拡大を目指す。四元数体に対するテータ対応はHasse原理が成り立たないことが、数論的に構造が豊かになり、応用をもたらすことが分かってきた。3次歪エルミート形式までは概ね研究したので、今年度は4次に対して研究する。中断していた周期関係式の研究も早急に再開する。 さらに、Gan-Gross-Prasad予想と相対跡公式に関し、特に次数8の三重積L関数を念頭に萌芽的な研究を始める予定である。
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