研究実績の概要 |
ピカール数が1のK3曲面上の安定層のモジュライ空間のコホモロジーの挙動(Brill-Noether locus)を調べた。第一チャーン類が原始的な場合は、Friedman, Markman,YoshiokaらによりBrill-Noether locusは詳しく調べられている。とくに変形理論により期待される次元を持つことや非特異性が分かっていて、モジュライ空間の構造解析や代数曲線上の直線束に関する(つまり古典的)Brill-Noether理論への応用がある。一方、一般の第一チャーン類の場合は、Kimura-Yoshiokaによる結果以外はほとんど何もわかっていなかった。そこで昨年度以降、Bridgelandの安定性を利用するという新たなアプローチを始め、いくつかの結果を得ている。さてその過程でイリノイ大学シカゴ校のIzzet Coskun, Howard Nuerと共同で安定層の階数が20以下の場合に、モジュライ空間の一般元の第一コホモロジーが消えない可能性のある向井ベクトルを分類した。この分類リストはかなり大きなものであったが、本年度は階数が10以上の場合について、実際の挙動を調べた。その過程で第一コホモロジーが消えるためのいくつかの十分条件も得た。そのほかにMeachan Ciaran, Mongardi Giovanni との導来同値だが双有理的でないHilbertスキームに関する共著論文を修正し、学術雑誌に受理された。
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