研究実績の概要 |
1.パンルヴェ方程式の大域的な漸近解析を展開する際に重要な役割を演じるのがインスタントン解と呼ばれる形式解である。本年度は、「バーコフ標準形を利用して楕円函数への変換を構成することによりインスタントン解に解析的な意味付けを行う」という新しいアプローチをより確固たる理論にするべく、昨年度に引き続いていろいろな研究を行った。特に、楕円函数への変換級数のボレル総和可能性を検証するために、その雛型と呼ぶべきリッカチ方程式の場合の変換級数のボレル総和可能性について考察し、リッカチ方程式の場合の変換級数の構造に関する新しい知見や、そのボレル総和可能性の証明に繋がる重要なアイデアを得ることができた。また、イタリアやポーランドでの国際研究集会をはじめとする国内外のいくつかの研究集会で、本研究の最近の成果を発表した。
2.他方、廣瀬三平氏(芝浦工業大学)、河合隆裕氏(京都大学)、佐々木真二氏(トロント大学)等と進めているホロノミック系の完全WKB解析に関する共同研究については、ホロノミック系を次元の低い多様体に制限したときに現れる「非遺伝性の二重変わり点」が、我々の想像以上に面白くかつ大きな役割を果たしていることが明らかになってきた。特に本年度の研究成果としては、(1,4)型の2変数超幾何系を制限して得られる3階の常微分方程式について、非遺伝性の二重変わり点がこの常微分方程式のスペクトル曲線に新たな周期をもたらすこと、さらにこの周期が常微分方程式のストークス幾何にいろいろな新しいタイプの退化を引き起こすこと、等が示された。これらの結果は、非遺伝性の二重変わり点に伴って新たな(パラメータに関する)ストークス現象が起きることを示唆する。こうした新たなストークス現象を解析することが今後の課題である。
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