研究課題/領域番号 |
26287016
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宍倉 光広 京都大学, 理学研究科, 教授 (70192606)
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研究分担者 |
稲生 啓行 京都大学, 理学研究科, 講師 (00362434)
上田 哲生 京都大学, 理学研究科, 教授 (10127053)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 力学系 / 分岐 / カオス / フラクタル / くりこみ |
研究実績の概要 |
1次元標準写像(アーノルド族)は z-> z + α + β sin(2πz) で定義されるが、相空間変数 z とパラメータ α を複素化して考えた。 主に非線型性パラメータ β を小さな正の実数としたときに、パラメータ α の空間で主要な放物型パラメータの周りに分岐集合が「指」状のパターンをもつことが以前から知られていたが、これについて、摂動された放物型不動点のの周りでの再帰写像とFatou座標を通して、新しい分岐パラメータ(Ecalle円筒上の平行移動に対応する)を導入した。指状集合はこの新しい座標によれば、平行な帯状領域になり、指が有限個であること、その個数の大まかな評価が与えられることを発見した。 擬等角写像によるリーマン球面上の4点の複比の変形の評価を与え、それを用いて各点ごとの微分可能性に関するTeichmueller-Wittich-Belinskiiの定理の簡潔な証明を与えた。この評価は、複素力学系の擬等角写像を用いた手術や折り込み構成のために重要な役割を演じる。 また、実2次多項式族に関するJakobsonの定理を複素解析的な手法で証明すると共に、その測度の具体的な数値による評価を与えるための研究を行った。まず、複素二次多項式の相空間とパラメータ空間のYoccoz puzzleおよびpara-puzzleを用いたJakobsonの定理の証明を与え、それを用いて実2次多項式族のカオス的パラメータの測度の下からの評価を与えた。 稲生は全ての臨界点がアクティブだが、Misiurewiczな力学系で近似できない、従って分岐測度の台に含まれないような多項式の新しい例を、3次または4次の場合に構成した。上田は、コンパクト複素多様体上のアフィン束上の(強)多重劣調和函数の存在,その増大度,その上の葉層構造との関連について,小池貴之との共同研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複素解析的な力学系の研究についてはおおむね順調に推移しており、これまでの研究成果を論文にまとめる準備をしている段階である。複素力学系の様々な構成(擬等角手術、折り込み、相空間とパラメータ空間の対応など)には擬等角写像に関する精密な評価が必要になるので、今後はそのような評価も既存のものよりも改良して力学系への応用に使えるようにする必要がある。また、実力学系への応用については、複素力学系の実スライスの性質についてより深く調べていく必要がある。また、超越整関数の遊走領域についてD. Marti Pete氏との共同研究を開始したが、それに関し基本的なC. Bishop氏の擬等角折り込みを用いた論文の証明に多数問題があることがわかったので、それを補完することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
1次元標準写像(アーノルド族)の分岐現象は力学系の理論の中でも基本的な対象であるので、それを複素力学系の立場から調べていく。特に複素放物型不動点の分岐の解析は代表者、分担者の研究の強みであるので、その応用などについてさらに研究を続けていく。また、超越整関数の遊走領域についてもBishop氏の擬等角折り込みを用いた論文の証明の問題点について、D. Marti Pete氏と共に、それを補完する方法を考えると共に、より簡潔な遊走領域の構成についても考察していく。 引き続き複素力学系の研究において重要な、擬等角手術、擬等角折り込みの方法で用いられる擬等角写像に関する様々な評価を行い、Beltrami係数が様々なノルムで小さいときの対応する擬等角写像の恒等写像への近さや、写像のパラメータ依存性を調べ、それを力学系の性質や分岐現象の解析などに王移用していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
超越関数の力学系の研究において画期的な擬等角折り込みの手法を開発したStony Brook大学のC. Bishop氏および複素力学系と算術的力学系を融合させて研究する新しい方向性を提案したChicago大学のL. DeMarco氏をを2017年12月の京都大学数理解析研究所でのRIMS Workshop on Complex Dynamicsに招聘しようとしたが、どちらも家族の都合などで日程を合わせることができず、招聘を断念した。次年度は、数々の力学系・函数論の研究集会に招聘されているので、それに出席してこれまでの研究成果を発表すると共に、最新の研究動向について各地の研究者と研究連絡を行う。
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