研究課題/領域番号 |
26287021
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
溝口 紀子 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (00251570)
|
研究分担者 |
高田 了 九州大学, 数理学研究院, 准教授 (50713236)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 放物型方程式系 / 爆発 / 走化性 |
研究実績の概要 |
有界領域における放物型―放物型走化性方程式系の有限時間で爆発する解の存在は数年前に研究代表者によって証明され、初期エネルギーを用いた爆発のための最適な条件が得られた。そこでは時間大域解はかならず正の定常解に収束するという事実が本質的な役割を果たした。一方、全平面では任意に大きい質量をもつ前方自己相似解が存在し、そのエネルギーは時間が経つとマイナス∞に発散する。この方程式系のモデルとなった細胞の集中現象の観点から述べると、有界領域ではある程度質量が大きいと移送項の影響により細胞は領域内のどこかに集中するが、全平面では細胞は無限遠方へと移動することができるので集中を回避できるのである。しかし、実際の現象から直観的な推察を行うことと、数学的に厳密な証明を与えることには大きな隔たりがある。前方自己相似解の性質によってエネルギーだけでは有限時間で爆発する解の存在は証明できないということはわかるが、どのようなアプローチをすればよいのかは既存の結果からは全くわからない。28年度に解決の糸口を発見したが、29年度は全質量が第2方程式の時間微分の係数に関係するある値より大きければ解は有限時間で爆発することを証明した。その証明は変形したエネルギー評価と第2モーメントを組み合わせ、さらにそこに変数変換を行うという独自の方法を創出することによって行った。 また、研究分担者の高田了氏は、3次元非粘性成層 Boussinesq 方程式の初期値問題に関して研究を行った.粘性による消散性がない状況において先行研究では時間局所適切性が知られていたが、安定成層による分散性を用いることによって同方程式の長時間一意可解性を証明した。また、浮力周波数を無限大とする特異極限問題において同方程式の解である3次元の速度ベクトル場が2次元 Euler 方程式の古典解に収束することを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の研究で、全平面でも有限時間で解が爆発するための十分条件を得るとともに、大きな集合の初期値がその条件を満たすことを証明した。扱う方程式系は同じであっても有界領域と全平面では時間大域解の構造が全く異なる。爆発問題は有限時間で爆発する解だけに注目していては解明できないことが多々あり、時間大域解も含めた解構造を知らなければならない。全平面では定常解に加えて前方自己相似解が重要な役割を果たすので、有界領域よりはるかに複雑な構造をもつ。全平面でも一つの特殊な爆発解を得るだけならば、有界領域と同様の手法でできる。しかし、本研究では、より一般的な結果を得るために解の構造を考察し、エネルギー評価だけでなく新しい方法を導入した。この証明の方法は他の方程式にも応用できるのではないかと考えている。全体的にみて、おおむね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
放物型―放物型走化性方程式系は生物学の実験でペトリ皿の中のバクテリアが多い場合にバクテリアが集中現象を起こす様子をKellerとSegelが記述したモデルに由来する。また、退化した拡散項をもつ高次元モデルは宇宙物理学と関連がある。集中現象は数学的には有限時間での解の爆発として定義される。全質量が小さい場合には解は時間大域的に存在することは既存の放物型方程式の解の評価を適用すれば証明できるが、有限時間での解の爆発問題の数学的な扱いは容易ではなく本研究の研究代表者がブレイクスルーとなる結果を発表するまで未解決であった。これまで本研究で様々なことが解決されてきたが、より一般的な結果を得るためには他の方程式の理論から新しいアイディアを得ることが必要になると思われる。また、近年の数学でよく見られるように、本研究でも数学的な証明が困難な場合に結果を予測するために数値解析の専門家との共同研究を取り入れる。生物学や物理学の専門家と議論する機会を設ける。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:長年未解決であった放物型―放物型の走化性方程式系の解の有限時間における爆発問題は、研究代表者が数年前にブレイクスルーとなる結果を発表したことから始まり、この爆発問題を扱うための数学的方法は現在も研究代表者が保持している。走化性方程式系は応用分野とも関連が深く、数学においても非常に競争が激しい。研究代表者がもっている方法やアイディアが拡散する前にさらなる進展を得るための研究に集中した方が良いと考えて、国内出張をしないで研究集会も開催しなかったのでそのための旅費を使用しなかった。 使用計画:これまでの4年間の本研究でNavier-Stokes方程式の手法が有効であることがわかった。その分野の世界的権威のV. Sverak氏の協力を得ることができるようになったので、彼の大学に出張して直接議論をするために旅費を使用する。また、フランスには関連する問題の研究者が多く、これまでも議論をしてきたが、引き続き次年度もフランスに出張する。研究の進捗状況に合わせ、先方の予定と調整しながら秋以降に招聘して研究集会を開くために使用する。
|