この研究は、偏微分方程式における解のなめらかさや大きさなど定量的な性質の解析において、超局所解析の手法を取り込むための汎用性のある方法論を構築し、偏微分方程式論の研究における新しい可能性を追求していくものである。それを具現化する道具としてのフーリエ積分作用素論とその理論の枠組みとしての関数空間論の整備を基本課題に据え、さらには、より一般の偏微分方程式に対する様々な基本的評価式を導出しその諸性質を考察するという応用課題に取り組むことによって、その方法論の有効性を実証していく。これは、偏微分方程式論における調和解析学の成果の積極的な利用という近年における世界的な動向に対し、さらに超局所解析の視点を融合させる独創的な試みである。今年度は、斉次構造をもつモジュレーション空間論の構築に関して重点的に取り組んだ.モジュレーション空間が斉次構造を持っていないため,その相似変換則はソボレフ空間やベゾフ空間などの他の函数空間とは様相が異なり複雑であることが知られており,このことがモジュレーション空間を偏微分方程式論に応用する際の一つの障害となっていた.この問題点を克服すべく,北京大学の Baoxiang Wang 氏との共同研究により,斉次構造をもつ改良型モジュレーション空間の理論を構築するための端緒を得ることができた.その他、非線形波動方程式の自己相似解の具体的構成法についても研究した。これまでに冪型の非線形項をもつ波動方程式の初期値問題に対して冪の指数がある範囲にとどまっていれば自己相似解が存在することが先行研究により示されていたが、これらはあくまでも「存在証明」であり、自己相似解がどのようなどのような形をしているのかに関する知見までは得られていなかった。このような状況のもと今年度の研究成果により、超幾何函数を用いて具体的に自己相似解を構成するという新しい手段を得ることができた。
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