研究課題
本研究課題の目的は、すばる望遠鏡などの地上大型望遠鏡、およびWFIRST計画などの将来スペース計画への搭載を目指した、高コントラスト観測システムを開発することである。太陽系外惑星からの光を捉えるため、明るい恒星光を強力に除去しなければならない。我々は、恒星光除去法として、焦点面位相マスク法の開発を進めている。この手法は、望遠鏡焦点面に位相変調を行うマスク(光渦マスク、8分割位相マスクなど)を置くことにより、打ち消し合う光波干渉を利用して恒星光を除去する。焦点面位相マスク法は理論上、円形主鏡の望遠鏡に搭載すれば恒星光を完全に除去することが可能である。しかしながら、実際の望遠鏡は主鏡像に副鏡とその支持機構(スパイダ)の影がうつりこみ、この影響により恒星光を完全に除去することができない。この問題を解決するため、本研究課題では「瞳再配置法」と呼ばれる手法を新たに提案し、その開発を推進している。平成26年度は、提案する瞳再配置法の計算機シミュレーションにより、その有効性を確かめるとともに、室内シミュレータを構築して実証試験にも着手した。焦点面位相マスク法の性能を劣化させるもう一つの要因は、使用する光学素子の面精度に起因した位相収差である。光学素子に位相収差があると、恒星光がスペックル状に残ってしまい、惑星検出を妨げてしまう。恒星の残留スペックルを除去するため、偏光観測法が有効である。恒星光は無偏光であると考えられているが、惑星光は恒星を反射、散乱した光であるため、部分偏光していると考えられる。偏光観測法は、無偏光である恒星光を除去するため、より高いコントラストが得られると期待される。平成26年度は、提案した新たな偏光観測法である「スペックル相関除去法」について、室内実証試験および計算機シミュレーションによる性能評価を実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
まず、年度当初に計画していた実施項目について述べる。平成26年度は、液晶空間光変調器(LCSLM)を用いたスペックル相関除去偏光観測法の検討、および実証実験を計画していた。平成27年度は、広帯域で高いコントラストを実現できる、3層構造フォトニック結晶8分割位相マスクの開発を計画していた。3層構造マスクの開発が困難な場合、よりシンプルだが性能は劣る、2層構造マスクの開発から着手することが検討されていた。また平成28年度は、瞳再配置法についての計算機シミュレーションを行い、その性能評価を行うことを計画した。さらに、瞳再配置法の室内シミュレータを構築し、実証試験による性能評価も実施する計画であった。上述の計画に対し、平成26年度はスペックル相関除去法の検討を行った。具体的には、液晶可変移相子(LCVR)を用いた簡易版シミュレータでの室内試験により、達成される観測性能を評価した。また、LCSLMを用いたシミュレータを想定した計算機シミュレーションを行い、その原理の確認、および性能評価を行った。その結果、LCSLMを導入することにより、LCVRによる簡易版シミュレータに比べ、より高い性能が期待できることを示した。さらに、LCSLMを実際に購入し、室内実証試験を実施するべくそのシミュレータの構築に着手しつつある。以上の通り、スペックル相関除去偏光観測法については、おおむね計画通りに進展している。また、平成27年度に計画していた項目であるが、3層構造マスクによるコロナグラフ開発にも着手することができた。さらに、瞳再配置法の計算機シミュレーション、および室内試験にも着手してその有効性を実証するなど、平成28年度に予定している項目にも取り組みつつある。以上の通り、広帯域マスク開発、および瞳再配置法開発においては、当初の計画以上に進展していると言える。
現在、平成26年度に購入したLCSLMを用いたスペックル相関除去偏光観測法のシミュレータを構築中であり、今後は完成したシミュレータによる室内実証試験を実施する。恒星スペックルを効果的に除去するためのLCSLMの最適な動作法について、計算機シミュレーション、および構築したシミュレータを用いた室内試験の両面から考察する。3層構造8分割位相マスクは、広い波長域(およそ0.7ミクロンから0.8ミクロンの範囲)において、9桁以上のコントラストを目標とした設計になっている。しかしながら実際には、上述の位相収差に起因する恒星スペックル光により、設計コントラストに到達することは極めて困難である。そこで、位相収差を補正するための補償光学との組み合わせを検討する。地球型系外惑星を観測するため、恒星光を10桁レベルに除去する特殊な補償光学(「ダークホール法」などと呼ばれる)が必要となる。今後の方策として、購入したLCSLMによるダークホールテストベッドを、北海道大学に構築することを検討している。これは、当初の計画にはない開発項目であるが、日本国内においてダークホール法開発の拠点を増やすという意味において、将来のスペースコロナグラフ時代に向けて非常に大きな意義があると考えている。瞳再配置法では、副鏡とスパイダの影を避けるように複数のサブ開口を取り出す。すばる望遠鏡を含む一般的な望遠鏡瞳では、4個のサブ開口を取り出すことができる。平成26年度は、早期に実証試験に着手するため、2個のサブ開口による簡易版シミュレータを構築した。今後は、4個のサブ開口を用いた、より現実的且つ高効率なシミュレータを構築し、実観測を想定した室内試験を実施する。この発展型シミュレータの構築は、北海道大学の実験室において既に着手している。
今年度の主要な購入物品は、液晶空間光変調器(LCSLM)である。その目的は、高コントラスト偏光観測のための偏光変調デバイスとして使用することである。一般的な偏光観測法では、液晶デバイスを半波長板および一波長板として動作させ、取得した画像から偏光成分を抽出する。一方、新たに提案したスペックル相関除去法では、液晶デバイスの動作のさせ方はより複雑なものとなる。今年度は、計算機シミュレーションをベースに、その有効性の実証と、適切な動作のさせ方についての考察を行った。今後は、計算機シミュレーションの結果をもとに、室内実証試験を実施する計画であり、現在はそのシミュレータ構築に着手しつつある段階である。このような現状により、シミュレータ構築に必要な物品は主に次年度に購入することとなり、僅かではあるが次年度使用額が生じた。
次年度使用額である13,700円は、次年度の予算と併せて、上述の偏光観測法シミュレータの構築のために使用する。具体的には、LCSLMのマウント(保持)機構に使用することを検討している。当面は、一般的なマウント法(ロッドおよびマグネットベースで固定)で対応する。しかしながら、提案する偏光観測法の実証試験では、LCSLMの保持に極めて高い安定性が要求されると予想している。そこで次年度は、データ取得中に液晶デバイスの自重により保持機構がドリフトしてしまわないよう、高安定マウントを購入したいと考えている。
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