研究課題/領域番号 |
26287028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 典之 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80580208)
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研究分担者 |
小林 尚人 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50280566)
河北 秀世 京都産業大学, 理学部, 教授 (70356129)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光赤外線天文学 / 高分散分光 / 恒星化学組成 / 銀河系 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、銀河系円盤にある強い減光を受けた天体の詳細な観測から銀河系の構造と進化を探るための基礎として、赤外線高分散分光の手法を確立することと、実際に円盤を探るトレーサとなる脈動変光星を見つけることである。 特に、あまり応用が進んでいない0.95~1.30マイクロメートルでの高分散分光観測を可能にしたWINERED分光器の超高分散化およびそのデータを用いる研究手法の確立が大きな目標の一つである。このために、金属量標準星などに対するWINEREDでの観測を進めた。これまでの研究で、鉄、シリコン、チタンなどはもちろん、リンなど可視光ではほとんど観測されていない金属の吸収線が存在することを確かめられた。また、波長分解能を約3万から約8万まで向上させる回折格子を購入し、その性能の確認と分光器への導入のための準備を進めている。今後の研究で、この波長域で恒星の金属量測定の基礎を世界に先駆けて確立することができると考えている。 赤外線高分散分光の応用として、すばる望遠鏡IRCS分光器で得た1.48~1.78マイクロメートルのスペクトルを用いた研究も進めた。まず、銀河系中心領域で発見したセファイド変光星の運動に関する論文を発表した。また、吸収線の比を用いて高い精度で恒星の温度を決定する指標をこの波長域で初めて構築し、現在その論文執筆を行っている。 銀河系円盤のトレーサである脈動変光星を探すための研究も順調に進んだ。5月には、南アフリカの共同研究者と行った銀河系円盤外縁部のフレア領域にあるセファイド変光星についての論文をNature誌で発表した。一方、東京大学木曽観測所で行っているKISOGP変光天体探査では数百個のミラ型変光星を発見した。それらの表面化学組成(酸素過多または炭素過多)により分類するための分光追観測も国立天文台岡山天体物理観測所および兵庫県立大学西はりま天文台で行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤外線スペクトルによる化学組成測定のために、まず吸収線リストの検証と較正という基礎的な研究が必要である。計画の初年度である平成26年度には、まずWINEREDの波長域にある約900本の吸収線の同定を行った。多様な元素の吸収線が多数存在することを確認できたことは、今後の研究への重要な第一歩である。また、鉄の組成が過去の可視光での測定結果と一致することを確認し、他の元素についても今後測定を行っていく予定である。一方、WINEREDの超高分散化も進めている。技術的な検討の必要性から超高分散回折格子の購入時期が平成27年度2月となったため、テスト観測を行うにはいたっていないが、納入された回折格子の性能確認とWINEREDへの導入の準備を行っている。平成27年度に実証観測を始める予定である。高分散分光観測データの利用として、すばる望遠鏡で得たスペクトルを用いる研究も進めており、今年度は銀河系中心領域のセファイド変光星の運動に関する論文をまず公表した。現在、それらの天体の化学組成に関する研究や一般的な恒星の有効温度を高精度で測定するための研究を行っている。 一方、銀河系円盤のトレーサである脈動変光星の探査も計画通りに進んだ。KISOGP探査では、今年度約100晩の観測夜が与えられ、計画していた観測データを集めることができた。これまでに得られたデータの解析も進み、数百個のミラ型変光星を発見することが出来た。今後、振幅の小さいほかの種類の変光星も含めれば、数千個の新しい変光星が見つかると期待される。発見した変光星の性質を詳しく調べるために、国立天文台岡山天体物理観測所では2014年9月~2015年2月までに合計19晩、8月26~30日と兵庫県立大学西はりま天文台では合計9晩(2014年8月26~29日、10月28日~11月1日)を与えられ、100個以上の天体の分光観測を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、(1)現行波長分解能でのWINEREDによる観測とそのデータを用いた研究、(2)WINEREDの波長分解能向上と試験観測、(3)木曽、南アフリカの変光星探査データを用いた研究、(4)WINEREDを海外の望遠鏡で活用するための検討を進める。 (1)現行の比波長分解能(約3万)での観測を5月頃から再開する。鉄、チタン、シリコンなど主要な重元素の組成を測定する手法を確立するために、さらに多くの金属量標準星のスペクトルを収集する。さらに、可視光スペクトルではあまり情報の得られないリンなどの元素を中心に、近赤外線スペクトルに特有な元素量決定の科学的意義や応用などについて検討を進める。 (2)WINEREDの比波長分解能を約8万まで向上させるため、平成26年度に購入した超高分散回折格子を秋頃までにWINEREDに導入し、試験観測を行う。 (3)木曽観測所シュミット望遠鏡、南アフリカ天文台IRSF望遠鏡での変光星探査ではすでに主要な観測データを収集し、現在その解析を進めている。それぞれ数千個単位で新しい変光星を発見できているので、今年度中にその成果を論文にまとめる。 (4)将来、WINEREDを海外の大型の望遠鏡に取り付けて、より暗くたくさんの天体を観測する計画を進めている。現在、その検討と複数の天文台との交渉を行っており、今年度はアリゾナ、カリフォルニアの天文台に赴いて、WINEREDの設置や観測の科学目標について現地の科学者、技術者と議論を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
特にWINERED分光器の超高分散化のためにどれだけ今年度中に物品購入費が必要になるか、技術的検討および作業の進捗による不確実性があったため、それに対応できる金額の請求を行った。
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次年度使用額の使用計画 |
WINEREDに用いる超高分散回折格子を今年度購入したので、これを導入して観測に用いるようにする改修を平成27年度に行う。このために、物品購入費(および、もし必要であればその他経費)を用いる。また、観測、共同研究、研究会参加などのための旅費にも十分な経費を充てる。
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