研究課題
本研究では太陽系X線その場観測のために世界最軽量X線望遠鏡のプロトタイプを完成する。製作プロセスは (1) シリコンドライエッチングによるX線反射用微細穴の製作、(2) アニールによる側壁平滑化、(3) 磁気流体による研磨、(4) 高温塑性変形による球面変形、(5) 原子層堆積法による重金属膜付け、(6) 2枚の変形済み基板の位置合わせによる Wolter I 型望遠鏡の完成、から成る。初年度の目標は角度分解能と有効面積の向上に向けた各要素技術の開発であり、1回反射シリコン光学系を用いて行った。角度分解能の向上のため、我々はドライエッチングを見直し、200 um スケールでのうねりは 10 nm rms 程度を達成した。これは従来より3倍程度良く、分角台の形状精度に相当する。同時に鏡の端に見られていたバリやアンダーカットも抑制した。さらに変形装置を首都大に新たに設置した上で、光学系パターンを最適化して、より高い変形精度、すなわち正確な鏡配置を可能とした。有効面積の向上では、鏡の反射角が従来は設計値とずれていたことから、変形治具の曲率半径の調整により、設計通りの値が達成可能であることをX線で確かめた。ドライエッチングの改善と合わせて、ほぼ理想通りの面積が達成できると期待される。さらに当初の計画を前倒しして、望遠鏡の構造解析と構造モデルの振動試験を首都大や東大の工学系の方々と協力して実施しつつあり、問題がないことを確かめてきた。また従来より3倍大きな12インチ1回反射光学系を産総研と協力して開発し、世界で初めてのX線反射の実証にも成功した。また本望遠鏡に基づく、地球磁気圏探査衛星 GEO-X を提案し、衛星検討も進めると共に、研究会をした。関連する成果は、5件の国際学会発表(うち2件招待)、15件の国内学会発表(うち4件招待)、1件の特許出願、2件の解説記事、2件の集録論文として発表し、現在、査読付き論文を1件投稿ずみ、2件を準備中である。
2: おおむね順調に進展している
申請時の予定通り、今年度は望遠鏡の性能向上のための、要素技術の改良に取り組み、特にドライエッチング、変形において大きな改善を行うことができた。特に角度分解能の構成要因について、X線と形状測定を組み合わせた評価方法が確立してきており、結果として形状精度と鏡の配置精度が角度分解能に半々程度の寄与があることがが判明してきたのは大きな成果である。有効面積に改善の目処がたった一方で、角度分解能はまだ分角オーダーと見積もられ、秒角台には改善が必要であることから、引き続き改善を進める。また、薄いシリコン基板からなる我々の望遠鏡の構造解析は従来からの最重要課題であったが、今年度、当初の計画を1年前倒しで開始することができ、実際に2枚のシリコン基板から成る構造モデルを振動試験することで、破損がないことが確認できてきていることは大きな自信となっている。また本手法で従来のX線天文用望遠鏡と遜色ない、直径12インチ(30 cm)望遠鏡が原理的に可能であることを示すことができたのは、大きな成果であった。さらに本望遠鏡を用いた将来衛星ミッションの検討を進め、地球惑星電磁気、高エネルギー宇宙物理、工学の超小型衛星分野にまたがる、分野を超えた協力体制を築きつつあり、具体的な搭載検討も進めることができた。こちらも計画を1年前倒しする形となっており、2020年前後の打ち上げを目指して順調に推移していると考える。
角度分解能の改善のための要素技術の開発を進める。課題は鏡の形状精度と配置精度であり、形状精度はドライエッチング単体では限界があることから、ウエットエッチングやガスクラスターイオンビームを後工程として行う複合プロセスによる改善を進める。表面のでこぼこを選択的にエッチングすることが出来る工程で表面の平坦性を向上する。配置精度については、ドライエッチングでの穴の垂直性と変形精度から主になる。これらを実験的に切り分けるため、変形前の基板にX線を照射し、反射光の位置のずれから評価を行う予定である。また産総研の世界最高レベルのドライエッチング装置を使用させて頂き、穴の垂直性を向上すると共に、磁気研磨などを併用した垂直性向上のプロセスを試す予定である。また変形精度については、昨年度、開発した新しい、鏡を支える梁を増やした光学系パターンによる改善が期待できる。これらの要素技術の改良を迅速に行い、新たなWolter I型望遠鏡を試作してX線で性能を評価する。この際には位置合わせ装置の微動台の追加や、稼働範囲の拡大などを行い、より高精度の2枚の基板の位置合わせを可能とする予定である。さらに、惑星探査衛星などの搭載に向けて、望遠鏡の構造・熱設計も進める。特に1年目に実施した構造モデルでの振動試験から一歩進んで、振動試験前後でのX線評価による定量的な性能評価を行うことで、問題がないことを確かめる。得られた成果については、引き続き学会発表、特許、解説、論文などとして発表を行ってゆく。また本望遠鏡は軽量安価なX線光学系として地上応用が可能であることから、地上応用を目指した検討を企業と行い、幅広い分野へ展開してゆきたい。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 2件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 6件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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