研究課題/領域番号 |
26287033
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
前澤 裕之 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00377780)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電波天文学 / テラヘルツ分光 / 地球・惑星科学 / 超伝導デバイス / 暗黒星雲 / リモートセンシング / 太陽活動 / プラズマプロセス |
研究実績の概要 |
テラヘルツ(THz)波帯は電波と赤外の波長のはざまにあり、ヘテロダイン検出器の開発が立ち遅れてきた。その中で、我々は1.8-2THz帯に着目している。酸素原子(OI)や星間ガスの冷却に重要な炭素イオン(CII)、地球や惑星大気の酸化反応をつかさどるOHラジカルなど、重要なスペクトル線がこの周波数帯に眠っている。本研究では、我々の超伝導NbTiN細線によるホットエレクトロンボロメータ(HEB)ミクサ素子の開発力をさらに推し進め、高感度な1.9THz帯導波管型超伝導NbTiN-HEBミクサを開発・実用化すべく、微細加工技術の限界への挑戦、HEBミクサ素子の高感度化・広帯域化・安定化開発、動作原理の精密モデリングを推進し、高周波化の基盤技術を確立する。また、気球・航空機・衛星などへのHEBミクサ搭載の議論をスタートさせ、将来のTHz天文学/惑星科学への展開の突破口を開く。 本年は、高周波電磁界シミュレータを用いた、素子チップ、ミクサマウントの設計、ホーンアンテナの設計や、GRASPシミュレータを用いて冷却光学伝送系の設計・改良を行った。そしてチップについては、この設計にもとづき、水晶基板の素子のダイシング・研磨試験を実施し、設計通りの微細加工が行えるように試作・条件だしを行った。また、この波長域の放射輸送モデルにより大気スペクトルのシミュレーションを実施し、HEBミクサを実際に衛星測器に搭載して、地球・惑星の観測を展開する将来計画の可能性について議論を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.9THz用のミクサマウントのチップスロット、IFフィルター/RF集光のパターンを、高周波電磁界シミュレータHFSSにより詳細設計を実施した。また、この設計どおりの加工が可能か、マルチプレップシステムによる研磨、ダイシングソーによるチップ化の試作試験・条件出しを行い、実際に微細加工が可能であることも確認することができた。チップの厚みは18μm、幅は38μmである。この試作を踏まえ、専用の電子ビーム描画システム用の新規マスクの設計も完了した。このマスクを用いると、従来の0.8 THz帯、1.4 THz帯のHEBM素子と同時に1.9THzHEBM素子も製作し、性能比較と問題点の洗い出しを容易化できる。ホーンアンテナについてはダイアゴナルを採用し、解析モデルとHFSSを用いて設計した。現行のスケーリングモデルでは、ビームの縦横比が非対称である可能性が出てきたため、その修正の検討を進めたため、ミクサマウントの製作が若干遅れている。しかし2015年度4月早々、ホーンの設計の目処をたて、加工業者と製作の打ち合わせを再開しており、マウントの製作を急いでいる。また、GRASPを用いた冷却光学系の設計も行った。また本年、地球・惑星のヒドロキシルラジカルOH、酸素原子OI、水蒸気(H2O)、その他、炭素イオンや分子の高励起線などを観測ターゲットとして、1.9THz帯HEBミクサを搭載していく衛星計画の検討に着手することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度にチップのダイシング・研磨における加工試験にすでに成功しており、ミクサマウントと素子の設計がほぼ完了した。そこで、素子の電子ビーム描画と光露光用のマスクパターンを作成する。さらに、ALMA/Band10や1.5THz帯ミクサで製作実績のある加工業者において、実際にミクサマウントの微細加工を実施する。ホーンアンテナ部は、加工の難しさから、本開発ではダイアゴナルホーンとする。1次解析のシミュレーションにより、-20dB以下のサイドローブや交差偏波も見積もった。 これらを受けて、本年は、マウントを実際に作成し、さらにHEB素子を製作して実装し、素子の性能評価を行う。その結果とモデル計算の比較から、RF/IFフィルターやフィーフォポイントインピーダンスの整合部、細線構造や細線/電極部の界面の製作プロセスについてもフィードバックをかけていく。また、熱揺らぎやジョンソン雑音を考慮した理論モデルに基づき、NbTiN-HEBミクサの雑音温度について極限まで低雑音化と広帯域化を図る。また、国立天文台のシステムを用いてビーム形状の評価も実施する(主偏波/交差偏波、サイドローブ、E/H面の電界強度のアスペクト比など)。 また、1.8-2THz帯HEBミクサ検出器を搭載して、銀河系内外の星間ガスにおけるCII(1.9THz)、OI(2.06THz)、地球・惑星大気におけるOH(1.837THz)やOHの本格的なヘテロダインセンシングへと発展させていくため、航空機や衛星測器への搭載ミッションの検討を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.9THz帯導波管型のミクサーマウントのビームパターンの、より良い設計・解を求めることができた。製作に際してこれを反映させる可能性を吟味するため、2014年度内に製作を開始する予定であったミクサーマウントの発注をペンティングし、2015年度初めまで製作を延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度初めに製作を開始し、経費の執行を行う予定である。
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