研究課題/領域番号 |
26287045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 斉 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60400230)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / ニュートリノ質量 / マヨラナニュートリノ / ボロメーター / シンチレーション検出器 / フッ化カルシウム結晶 |
研究実績の概要 |
ニュートリノレス二重ベータ(以下、0νββ)崩壊の観測は、ニュートリノ質量の絶対値を測定する極めて有効な手法である。また、0νββ崩壊の発見は、ニュートリノのマヨラナ性の直接的な証明になり、ニュートリノの微小質量を自然に説明するシーソー機構を強く支持する。本研究計画では、二重ベータ崩壊核の中で最もQ値が大きい、48Ca同位体を含む不活性フッ化カルシウムシンチレーション検出器を、10mK以下という極低温に冷却し、熱量検出器として利用することで、0νββ崩壊観測に大変重要な高エネルギー分解能検出器を開発する。熱量に加えてシンチレーション光を同時検出し、両者の信号強度を比較して、事象の粒子弁別を行う方法を確 立する。その結果としてバックグラウンドを徹底的に排除し、バックグラウンドフリー観測の実現可能性を立証して、ニュートリノ質量の絶対値測定に対して数meV以下の領域を探索できる手法を開発する。 本研究の検出器開発の主要部分の一つである希釈冷凍機を東京大学から譲り受け、その装置の立ち上げを行った。He3-He4循環系に見つかった漏れ箇所の補修作業が完了し、希釈冷凍機の運転を開始した。検出器中心部の結晶およびそのホルダー、検出器周りに設置する遮蔽体の設計と製作を行い設置がほぼ完了した。光検出器については、光吸収デバイスとサーミスター部分、およびそれらをマウントするホルダーの設計を完了し、光吸収用ゲルマニウムワイファーのカットと表面処理を行っている。以上のことが完了し、検出器稼働のめどが立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を遂行するうえで、希釈冷凍機の運転が必須である。希釈冷凍機の老朽化が原因で装置の気密性に問題があり補修に時間を要したぶん計画に遅れが生じた時期はあったが、年度内に何とか補修が完了し、運転実施にこぎつけることができた。最終的には後れを取り戻しおおよそ予定通りに計画を進行し、そのほかは大きな問題は生じていない。 検出器信号系では、低温部のプリアンプの実装と冷却試験の際に、FET(半導体回路素子)が損傷し、用意した8chの多くを再製作した。室温部のアンプをはじめとする電子回路や、信号および各制御用の記録装置の動作確認が完了し、希釈冷凍機の運転でデータ収集ができることを確認でき、順調に終了した。 将来の地下実験室での実験実施を目指して液化ヘリウム再生装置を運用することを目的として装置の立ち上げを行う予定は、機械部分のコンプレッサーの不具合のため代替措置として行っている、大学の低温センターから液化ヘリウムを運搬し冷却することを継続している。検出器開発自体には問題にはならない。ただし、液化ヘリウム再生装置の運転実施は、コンプレッサー故障と合わせて他にもいくつかの不具合が確認され、極めて困難であるという認識をしている。本研究課題の一つの目的としていた地下実験室の稼働へ向けた検出器の準備に関しては、無冷媒式の希釈冷凍機の導入などを改めて検討する必要が生じている。 結晶サイズは20mm角(30g)の立方体とし、4個を同時に冷却し、検出器の最終デザインとして必須な多結晶化の実証に取り組むため、準備を完了し設置も行った。多結晶化された検出器システムからのデータにより、48Caのニュートリノレス二重ベータ崩壊のQ値(4.3MeV)付近でのバックグラウンド除去性能を考察するとともに、大型化へ向けた検出器デザインへのフィードバックを目指す体制は整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
極低温下(lOmK以下)にフッ化カルシウム(以下、CaF2)結晶を冷却し、熱量検出に加えて低温下のCaF2検出器から蛍光信号を検出し、熱量蛍光検出器の原理検証を行う。最終的に使用する結晶は500グラム大の大型高純度不活性CaF2シンチレーション結晶であるが、原理検証として信号の検出がしやすい(熱容量の小さい)20mm角結晶を使用する。蛍光検出器としての性能が良好なCaF2シンチレーション結晶を使用することで、蛍光信号の検出を容易に行い、信号処理部分(低温エレクトロニクス)の改良・開発を効率的に行う。 具体的に、下記の項目について研究を実施していく。 ①読み出し用エレクトロニクスの改良:サーミスターからの微弱な信号を検出するために、低ノイズ低温エレクトロニクスの改良を行う。特に、蛍光信号は結晶から光検出器センサーへの集光にゲインが大きく左右される。高い集光効率を達成するための反射材の選定と、光検出器表面での反射抑制用ガラス蒸着などを行い、高効率の蛍光集光システムを構築し、実装する。 ②検出器のエネルギー較正方法の確立:ウラン系列の放射性不純物を多く含むCaF2結晶を使用して、結晶内部の放射能によってエネルギー分解能を評価する(検出器結晶4個のうちの1個)。外部放射線源を使用したエネルギー較正として新しく低エネルギーγ線源と後方コンプトン散乱ガンマ線ピークを使用する手法を確立し、正確なエネルギー較正方法を確立する。 ③結晶の大型化:50mmφx50mm程度(約350g)サイズの円筒型CaF2結晶を用意し、エネルギー分解能や粒子識別能の評価を行う。結果をもとに、検出器の大型化や、カルシウム同位体濃縮の実現が組み合わさった場合のニュートリノレス二重ベータ崩壊探索感度を評価し、ニュートリノ質量の絶対値測定に対して数meV以下への探索の可能性について結論をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年1月~3月に使用した液化ヘリウムおよび液化窒素の使用料金が未払いであるため、残額が生じている。また、継続的に必要な他の消耗品購入費用のうち、すでに発注済みのもので納品が終わらなかった物品が存在する。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年1月~3月に使用した液化ヘリウムおよび液化窒素の使用料金と真空配管関係の消耗品購入費に充てる。
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