研究課題/領域番号 |
26287049
|
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渋谷 寛 東邦大学, 理学部, 教授 (40170922)
|
研究分担者 |
三角 尚治 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80408947)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 素粒子実験 / ニュートリノ / エマルション |
研究実績の概要 |
臭化銀結晶の濃度を高め、最小電離粒子に対する感度を向上させた新型の高感度乳剤合計10バッチ、計約8kgを名古屋大において製作した。この乳剤をポリスチレンベース両面に塗布し、高感度フィルムを作製した。総塗布面積は約2.0平方メートルである。このフィルムと厚さ500ミクロンの鉄板(SUS304)を交互に積層したECCからなるエマルション検出器を製作した。これをJ-PARCニュートリノ前置検出器ホール内のニュートリノビームモニターINGRIDの上流に設置し、ニュートリノや反ニュートリノの照射実験(T60)を遂行した。標的鉄板の質量は2014年11月~12月の照射では3.0kg、2015年2月~4月の照射では2.0kgである。その際、神戸大の協力により、時間情報を付加する多段シフターをエマルション検出器下流に設置し、本体を貫通する荷電粒子飛跡にタイムスタンプを付加することができた。取り出し後、東邦大の現像室にて、現像処理を行った。同時にモニター用の小型ECC検出器も設置して、少しずつ取り出し、製造した高感度フィルムの感度劣化や潜像退行の様子をモニターした。最小電離粒子に対する感度は100ミクロンあたり80グレイン程度、ノイズとなるフォグの密度は1000立方ミクロンあたり3~4個と、本研究の遂行に十分な高性能を確認できた。潜像退行の研究では、室温(摂氏23度)に2か月程度の設置なら問題ないが、より長時間照射するなら低温に保つ対策が有効であることがわかった。
ニュートリノ反応のジェネレーターGENIEや素粒子の物質中での振る舞いや反応を組み込んだシミュレーターGeant4を実行し、低エネルギーニュートリノ反応の特徴を調べると共にその研究に最適な検出器の設計、ECCの構造の研究にも着手した。電子やハドロンのECC中での振る舞いに関しても実験データとシミュレーションの比較研究を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度新乳剤の製造、これを塗布して高感度フィルムの製造、鉄板との積層構造ECCからなるエマルション検出器の製造、これをJ-PARCニュートリノ前置検出器ホールに設置したこと、さらに神戸大の協力を得てシフターを付加した状態でビーム照射実験(T60)ができたことは大きな成果である。これらの平成26年度の研究活動により、J-PARCにおいて高感度新乳剤を用いたエマルション検出器を用いた実験が可能であることは十分に示すことができた。また、シミュレーションを用いた研究に関しても、低エネルギーニュートリノ反応のジェネレーターGENIEや発生した素粒子の物質中での振る舞いや反応を組み込んだシミュレーターGeant4の実行も可能になり、今後本研究に最適なエマルション検出器の設計、ECCの構造の研究の進展が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に照射したエマルション検出器のフィルム現像処理および高速スキャンを行い、ニュートリノビームに付随するバックグラウンドや環境放射線のデータを得る。上流のニュートリノ反応で発生し、検出器を貫通するミューオン、宇宙線のミューオン、ニュートリノ反応からのハドロンなどを再構成し、最終的にはニュートリノ反応を検出する。 実際の検出器構造を組み込んだGeant4シミュレーションを実行して実験データと比較する。その結果に基づいて新たなエマルション検出器を製作して今年度も照射実験を遂行する。
スペクトロメーター部構造の研究では低密度スペーサー材料のRohacellやAirex等を入手して、平面性を保ったまま、フィルムと積層し、圧力をかけて固定できるか、など実験を行う。温度変化による熱膨張、収縮でスペクトロメーター中での飛跡位置測定、サジッタ測定精度がどれだけ悪化するか、ビーム照射実験ならびにシミュレーションによって研究を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年1月からニュートリノ照射を行う計画で原子核乳剤を製造し、フィルム塗布を行って検出器を製作し、J-PARCニュートリノ前置検出器ホールに設置したが、火災等の影響で加速器運転がストップしてしまった。2月下旬からビーム照射を再開できたが、検出器の回収とフィルム現像処理、高速スキャンなどは次年度に繰り越すことになったため、未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年2月下旬から4月にかけてビーム照射実験は遂行できたので、その後の回収、フィルムの現像処理などは次年度の4月に行った。今後、速やかにフィルムの高速スキャンを行うなど、切れ目なく研究を継続する。繰り越し金は平成27年度の研究費と合わせ、現像用薬品などの消耗品購入、フィルムの高速スキャンのため名古屋大へ行く出張旅費や成果報告のための学会参加に関わる旅費等に使用する予定である。
|