J-PARCニュートリノ実験施設・前置検出器ホール・SSフロアにおいて、2016年1月31日から開始した反ニュートリノビームの照射実験は5月27日に終了した。エマルション検出器はサイズが25cm * 25cm の鉄板22枚と原子核乾板23枚を積層させた単位検出器(ECC)12個からなり、有効標的質量は合計 60 kgである。この中に反ミューオン・ニュートリノ反応3000個、反電子ニュートリノ反応20個程度が蓄積されたと予想される。照射終了後直ちに取り出し、日本大学の暗室において原子核乾板の現像処理を行った。引き続き表面銀除去と膨潤処理の後、名古屋大学の超高速飛跡読取装置HTSで全面スキャンを行った。このデータのうち全体の約60%の領域に対して二次粒子多重度が3以上の反ニュートリノ反応候補を探索したところ、738事象の検出に成功した。そこで、この結果を日本物理学会第72回年次大会で発表した。
検出された低エネルギー反ニュートリノ反応を詳細に研究し、分類するためには反応から放出された二次粒子の多重度、放出角度、飛程の測定に加えて、二次粒子の電離損失や運動量の精密な測定が必要となることが、ニュートリノ反応ジェネレーターGENIEを用いた比較研究からわかった。この電離損失の測定に用いる乾板中の飛跡体積(PHV)の測定値には飛跡角度への依存性と潜像退行の効果があり、その補正をするための基礎的な結果を得た。さらに、エマルション検出器に0.1~2.0GeV/cのミューオンを垂直入射させるシミュレーションを実施し、多重電磁散乱の測定に基づく運動量測定の誤差を評価した。23枚の乾板を使用すれば、0.1~2.0GeV/cのミューオンの運動量は50%以下の誤差で測定可能であること、特に0.5GeV/c以下のミューオンの運動量は3枚の乾板の測定でも50%以下の誤差で測定可能であることがわかった。
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