研究課題/領域番号 |
26287054
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
今里 純 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (40107686)
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研究分担者 |
豊田 晃久 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (20373186)
五十嵐 洋一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (50311121)
清水 俊 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60294146)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レプトン普遍性の破れ / J-PARC E36 実験 / スパイラル・ファイバー・トラッカー / K中間子崩壊 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はGEM検出器を作成し荷電粒子の位置検出器としてJ-PARC E36実験に投入し、荷電K中間子の2体崩壊である Ke2 とKmu2 の分岐比の比を精密に測定することにより、レプトン普遍性の破れを探索し、標準模型を超える新しい物理に迫ることである。昨年度の検討に従いGEMに代わりSpiral Fiber Tracker (SFT)を採用してE36測定器を構築し、本年度はJ-PARCハドロン実験施設においてK+ビームを用いて測定を実施した。 4月のビームタイムで1)ビームの調整、2)SFTを含む中央部検出器の試験、2)CsI(Tl) ガンマ検出器の調整等から始め、ビームタイム後半には超電導トロイダル電磁石の稼働開始を待って、SFTの他3台のMWPCと標的、及びトリガーとなるカウンターの調整へと進んだ。6月に1月間実施したビームタイムにおいては、全検出器のさらなる調整、e+/mu+弁別の粒子識別方式の確立、及びデータ取得の試験を行い、いわゆるエンジニアリング・ランを終えることができた。 夏期期間中これらのテストデータの検討・解析に基づいて1)トリガー条件改善のためのTTCカウンターの追加、2)標的のファイバー条件を組み込むためのデータ収集モジュール(EASIROC) の改修を行った。取得したデータで解析方法の開発を進めた。本格的な物理データ収集を10月から12月にかけてのビームタイムで実施した。J-PARC加速器のビームパワー向上もあって、比較的順調なデータ収集を行った。Ke2及びKme2を最も効果的に取得するトリガーにより、当初計画には及ばなかったものの、約4万Ke2解析事象に相当するデータを蓄積した。またこの実験での重要点となる測定器のKe2/Kmu2 アクセプタンス比の測定を3つの方法で行った。 H28年度での本格的なデータ解析に向けて準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)当初計画していたE36実験へのGEMの投入は、検出器の製作期間やコスト等の全体的な整備計画の見直しの結果、新規構想によるSpiral Fiber Tracker により勝る性能をもって代替された。J-PARCでの加速器運転時間とビームタイムの実施時期に非常に強い制約があり、この変更によりE36実験をほぼ計画していたタイミングで開始することができた。 2)J-PARCハドロン実験施設でのビーム配分は厳密であり、E36実験で当初目論んでいたKe2の事象統計量は得られなく実験を終了し、測定器を実験エリアから撤去することとなった。今後、解析でいかに解析事象数を確保するかが問題となる。 3)測定器は概ね順調に働いた。系統誤差は静止K+崩壊の特徴を活かし、今後の解析で最小にする努力をする。ただ、K+ビームに混入しているパイ中間子の量が時間的に大きく変動する現象があり、最後まで解決できずに残った。この悪影響が解析に及ぼす結果が心配される。 4)計画では2年度目までに測定を終え、3年目の最終年度で解析を終え結果を得る予定であったが、測定を統計が少なく不本意に終わらざるを得なかったものの、この点では研究は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後(最終年度)にはH27年度に取得したデータの解析を進め、Ke2崩壊のKmu2崩壊に対する比を求める。このために1)荷電粒子トラッキング解析方法の確立、2)e+/mu+粒子判別条件の最適化、3)CsI(Tl)検出器の波形解析の確立、をまず進め、本格解析に入る。解析は国内と海外の研究協力者が独立して行う。さらに4)Ke2とKmu2のアクセプタンス比の導出を特別に取得したデータを用いて行う。また、5)副産物物理として同時にデータが取得されている「ダークフォトン」の解析を進める。 最終結果を得るには、E36実験の海外の共同研究者を交えてのコラボレーション会議を数回開催し、研究討論による。
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次年度使用額が生じた理由 |
J-PARC E36実験はハドロン実験施設における数少ない素粒子実験として、失敗の許されない状況のもとで開始された。測定器の故障等の事態に備えるために予備費的に使える費用を考えておく必要があったが、比較的短いビーム期間中、大きいトラブルもなく、測定器維持にかける費用を抑えることができた。また、GEMにかわってSFTを採用したことで、チェンバーガス等のランニングコストを削減することができた。ただ、SFTを含めた中央部検出器の最終的な性能確認と較正作業は、実験エリア撤去作業を優先させる必要があったため、年度内に実施することができず、H28年度に持ち越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
1)中央部検出器の性能確認を、KEK(つくばキャンパス)において行う。データ解析を進める上で、SFT, TOF1 (TOFカウンター)、AC(エアロゲルチェレンコフ検出器)のゲイン等の性能の再確認をすることが重要となる。同時に一部の破損箇所の修復を保管前に実施しておく。標的の読み出すに用いたEASIROC回路モジュールの機能再確認作業も行う。 2)データ解析を進める。コンピュータやデータストレッジの整備を随時行う必要がある。このための機器の購入費用として使用する。 3)研究討論を行う目的で、E36グループのコラボレーション会議を、国内と海外とで開催する。このための旅費として使用する。
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