研究課題/領域番号 |
26287058
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
久保野 茂 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 客員主管研究員 (20126048)
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研究分担者 |
岩佐 直仁 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50322996)
川畑 貴裕 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80359645)
西村 俊二 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 先任研究員 (90272137)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ビッグバン元素合成 / 宇宙核物理 / 元素の起源 |
研究実績の概要 |
平成26年度の当初計画は、(1) 4He(a,n)のテスト実験と、(2)トロイの木馬法(TH法)の適用性の検討であった。 (1)のテスト実験は、阪大核物理研究センターで39.4 MeVのαビームを用いて行った。実験は、グランンドライデンの標的槽に、Heガス標的、その周りにNaIガンマ線検出器、下流に液体シンチレータを設置して、室内バックグランド、測定中性子の分解能等々の測定を行った。実験結果: 12C(a,n)反応を用いて、1.7 mの飛行距離で、中性子測定エネルギー分解能が0.5~0.6 MeVであったので、中性子検出器は、もう少し長い飛行距離が必要であるが分かった。また、この反応では、15Oの既知の準位が期待通り観測された。しかし、4He(a,n)反応からの中性子は低エネルギーであるので、αビームのダクト当たりなどのバックグランドに隠されて、あまり明確に観測されなかった。本実験に向けて、データの解析をさらに進めて、ガス標的の膜厚と種類の最適化などを検討する予定である。(2)のTH法の適用性については、同法の専門家であるカタニアグループを久保野が6月に訪問し、議論・検討した。大強度の7Beビームを用いれば、実験が可能であることがわかり、プロポーザルを準備中である。(3) また、この7Be(n,a)4He 反応のビッグバン直後の始原的宇宙における重要性を一部現象的な模型を用いて評価し、論文にまとめ、投稿した。 (4) 一方、本研究課題の第2の核反応7Be(n,p)7Liを調べる実験研究を予定より早めて、準備研究を開始した。この反応研究の鍵となる、終状態の7Li(g.s) と7Li(1st ex.)の分岐比を実験的に決定するプロポーザルを原子力研究機構タンデム加速器研究施設に提案し、認められた。今秋実行を目指して、標的の製作、焦天面検出器の整備などを開始した。(5) 更に、中性子検出器のエネルギー分解能を上げる技術検討なども並行して進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の当初計画は、4He(a,n)のテスト実験を行い、実験遂行上の技術的な問題を洗い出すことと同時に、間接的方法であるトロイの木馬法(TH法)の適用性を検討することにあった。 4He(a,n)の研究については、実際に39.4 MeVのαビームを用いて実験上の問題を明らかにすることができた。実験結果として、C12(a,n)反応からの中性子のスペクトルが観測され、以前の論文に報告されている断面積を再現していることが分かった。また、中性子測定上の各種バックグラウンドの検討も実験的に行い、現在その解析が進行中である。テスト実験は、1月初めに予定されたが、核物理研究センターの都合で、2月末に変更されたため、スケジュールが少し遅れてしまった。このため、全体の計画がすこし遅れている点は反省に値する。一方、TH法の適用性については、実験の可能性についての検討が進み、プロポーザルに纏まりつつある。この課題については、予定通りである。 7Be(n,a)4He 反応の理論的評価の仕事は、昨年度計画に含めていなかったが、課題に関係する一つの重要な成果となった。 更に、当研究活動では、第2の課題である7Be(n,p)7Li反応の研究は、本研究活動の後半に計画していたが、研究開始時期を早めた。この課題のための十分な準備が可能となったことは、評価に値するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)第一の課題の核反応4He(a,n)7Beの研究については、昨年度末に行ったテスト実験のデータの解析を進め、本実験の実施計画を詰める予定である。また、トロイの木馬法による実験研究計画を詰めて、実行計画を立案する。トロイの木馬法に強みを持つカタニアのグループと9月に当地で開かれるサマースクールに参加し、実行案を詰める。 (2)第2の課題である宇宙核反応7Be(n,p)の研究では、7Li(3He,d)8Be*(p)7Li反応を用いて、問題の8Beの励起状態から7Liの基底状態と第一励起状態に行く遷移の強度比を測定することが目的である。今年度は、日本原子力研究開発機構のタンデム加速器施設からの3Heビームを用いて、この測定のテスト実験を行い、実験研究の目途を立てる。具体的には、7Li(3He,d)8Be*反応で励起する19 ~ 20 MeVの励起状態に対応するdを、反応磁気分析器ENMAを用いて、高分解能で測定する。同時に、これらの励起状態から崩壊する陽子線を測定し、問題の分岐比を決定する。実験に用いるENMAスペクトロメータは、しばらく使われていないので、その整備・調整を行う。実験に用いる焦天面検出器は、検出器中の芯線などの張り替えを行う。また、崩壊陽子の測定には、広い角度範囲の測定を行うための多ストリップのSi検出器を複数台設置する。この実験に用いる7Li標的については、7Liが化学的に非常に活性なので、安定な標的を作る技術の開発を完成させる予定である。 (3)本研究課題目的である7Beの消滅に間接的であるが、重要と考えられる宇宙核反応10B(a,n)13N反応の実験を関連研究として、理化学研究所のペレトロン加速器施設で、行うことを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)第一の課題の核反応4He(a,n)7Beの研究では、テスト実験が今年1月初めに当初予定されたが、核物理研究センターの加速器スケジュールの変更により、2月末となり、本実験に向けてのセットアップ製作費などの執行ができなかった。なお、テスト実験を行うために、既存の中性子検出器を設置するための架台などの製作は、予定通り執行した。今年度の計画は、このテスト実験結果の解析を待って検討することになる。 (2)一方で、研究計画の全体を考慮して、第2の課題である宇宙核反応7Be(n,p)の研究を、当初計画を変更して早めに準備研究を始めることにした。このため、標的製作のテストや実験研究打ち合わせなどに予算の一部を先行使用した。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)第一の課題の核反応4He(a,n)7Beの研究では、テスト実験が今年2月末行われたので、本実験に向けてのセットアップ製作費などの執行は、そのテスト実験結果の解析を待って実行計画を検討することになる。(2)一方で、第2の課題である宇宙核反応7Be(n,p)の研究を早めに準備研究を始めた。今年度は、この反応の測定テスト実験を日本原子力研究開発機構のタンデム加速器施設で行う予定である。このため、焦天面検出器の整備、標的製作などに物品費を使用する。(3)国内旅費は研究打ち合わせと、茨城県東海村で行う課題2の実験のために使用する。また、海外旅費は、イタリアで開催されるサマースクール参加(研究課題関連の内容の講義とトロイの木馬法による課題1の検討)に使用する。 (4)なお、当研究課題の7Beの消滅にかかわる宇宙核反応10B(a,p)反応の実験を行うために、予算の一部を使う予定である。
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